あたしデフレを調べたの
いやいや正確に言うと調べたんじゃない。ネットをちょっと検索して基本の常識のことをつめこんだだけ。こんなんで調べたことにはならないと学生には常日頃言ってるんですが、まあ私の専門分野じゃないからな。
ていうか、岸田首相はこのくらいのこと知ってるんでしょうか。あたかも、これだけ言っとけば誰も反論できないと思いこんでるようですが。デフレの脱却は絶対に必要で、ずっとできなかったから千載一遇のチャンスだから、何を犠牲にしても、これだけはやりとげねばならない!って、ただもう、そればっかり。
それで、ネットの基本項目をひとつふたつ、ちょいちょいと見ただけの私が、山本太郎や山崎拓なみとは言わんけど、あっという間に首相のこのお題目を粉砕してやれる気がしてしょうがないんですけど、誇大妄想やろうか。
デフレっていうのは、ものの値段が下がることで、そしたら企業がもうからなくなって賃金が上がらなくなって、ものが売れなくなって不景気になるから困る。インフレはその逆で物価が上がって企業は収入が増えて賃金も上がるけど、これまたものが高いから買えなくなって売れなくなって以下同文。
で、首相も財界も日銀も、デフレが続いたからインフレにしよう、つまり物価を上げようとしてるわけで、しかし、ずっと言われているように物価は上がっても賃金は上がってないわけだから、首相がいくら声を枯らしてくり返そうと、今やられていることも政府がめざしていることも、そもそも「デフレの脱却」なんかじゃない。首相も財界も去年辺りから「賃金は上がった」と鬼の首をとったようにくり返しているけれど、そもそもこれまで上がらなかった程度がひどすぎるし、物価の上昇にはぜんぜん追っついて行ってない。これで「デフレからの脱却」ができそうになりかけてるなんて幻想をふりまいても、そうは問屋がおろさない。
もうひとつ、もっと根本的なこと。インフレもデフレも、ひとつの現象で、「不思議の国のアリス」が、身体の大きくなるお菓子と小さくなるお菓子を工夫して食べて、ちょうどいい大きさになっておもちゃの家から脱出するみたいに、あるいは雨が降ったら傘をさし、寒くなったらコートを着るみたいに、そのときどきで見計らいつつ、国民にとって一番快適で幸福な状況をめざして、維持しようとか脱却しようとか、ちょっとスピードゆるめようとか、そろそろやめてもいいかとか、やりすぎたかとか、もうちょいだとか、案配して行くものでしかない。大事なことだが、その程度のことです。「戦争をしない」「人権を守る」「核兵器は使わない」みたいな金科玉条で死守する覚悟を表明したり共有したりするような種類のもんではない。
それが、首相の国会答弁を聞いてると、「デフレからの脱却」は、もう神から与えられた使命であり人間と地球を守る譲れないモラルでもあるかのような印象を受ける。絶対に揺るがせないゴールポストみたいに守り抜かなくてはいけないもので、そのためには子どもが飢えようが高齢者が自殺しようが若者が絶望しようが、しかたがないほどの国家をあげての大命題で最高の価値があるものであるかのようだ。いやひょっとしたら本当にそう考えてるんじゃないのこの人?
ちがうでしょ、それは。くり返し言うけど、デフレだのインフレだのっていうのは、お天気や体調みたいな不安定で見定めにくいもので、だからこそ、いつも目をこらしてバランスとって、どう対応するか柔軟に敏速に反応して行かなきゃいけないもんでしょ。そういう点での位置づけや価値観が、首相は完全にまちがってる。家庭で言うなら、子どもに「人を殺すな」「ものを盗むな」と教えると同じか、もっとそれ以上の基準で、「チョコレートは三個まで」「宿題はテレビを見る前に」とか強制してるようなもの。言い換えれば「チョコレートを四個食べるぐらいなら人を殺してもかまわない」「宿題をちゃんとするならスーパーで万引きしてもいい」と説教してるようなもの。実際そうでしょ。防衛費を国民に無断で増強し政治資金を横領し汚職や脱税や犯罪に目をつぶって「デフレからの脱却」ばっかり言ってるって、そういうことでしょうが。
と、数分ネットを流し読みしただけの私でも、このくらいのことはわかるんですが、どう見ても絶対に、その点が首相はわかってないとしか思えない。あるいは、ただの言い訳の手法で、これ言っとけば皆黙るだろうと思ってるだけかもしれないが、それはそれで、デフレ対策になんかなりようがない。何から何まで間が抜けてるし、先が見えないとしか思えないけど、私まちがってますかねえ。