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あるあるある(笑)

ゆきうさぎさん

もう10年以上前かなあ、新聞に週に一回、動物に関するエッセイを連載していた時のことですけどね。
スペインの闘牛のことを書いたのですよ。メインの内容じゃなくって、話のマクラに。私の友人で闘牛が嫌いな人がいて、彼女、海外旅行が好きでよく行くのだけど、スペインに行った時、ツアーの日程に闘牛見物が含まれていて、見ないからってお金は返してもらえるわけじゃないけど、それでもガイドも他の人も見に行ったのに彼女ひとりは結局見に行かなかったんだって。で、そのことを書いたんですよ、だいたいこのままか、もっとわかりやすくか。

そうしたらさ、その後で読者から手紙がきて、「先生のお友だちは闘牛を見に行かなかったけど、先生は見に行かれたそうで。でも私はどうしても闘牛には反対です」と言って、長々長々闘牛に反対する自分の信条だか心情だかを書いてるわけです。

作家やエッセイストその他ものかきの人には、こんな体験珍しくもないんでしょうが、私には初めてで、ちょっと唖然としましたね。そもそもメインの話でもないマクラの部分なのはおいとくとして、私はスペインになんか行ったこともないし、まあいろいろとにかく、読みまちがえるような内容ですかね。

たしかに、ゆきうさぎさんも言っておられる通りで、教師やってると学期の終わりのレポートで学生が、私が半年かけて授業中に声をからして教えたこととまったく反対のことを、私が「これはいけない、これはまちがい」と言ったそのままの文章を引用して、「こういうことを初めて知って勉強になりました」とか書いてきたりするのなんてザラです。私にかぎらず他の先生も、よくそう言って嘆いてる。

「猫は恐竜であるというのは間違い」とか「犬のしっぽをひっぱって遊ぶのはいけない」とか言うと、もう途中で完結して「というのは間違い」「のはいけない」が消えるんですね、頭から。関係代名詞でつながれた文節という存在を否定して生きてるとしか思えないです。

ですから、そういう読みまちがいだけなら脱力もするけど、慣れてもいますし、まあいいんですよ。でも私がもうひとつ、この投書にアタマに来たのはね、こいつ、匿名なんですよ。

だいたいこんなの、名前かくして投書しなくちゃならんほど大層な内容でもなし、昨今のグリーンピースのポール何ちゃらさんもどきに、闘牛場にしのびこんで牛を解放しようとかいう団体のメンバーとか、そういう計画立案中とかいうならとにかく、何いったい気どって匿名なんかにしてやがんだよ、って私もだんだん2ちゃんねる風の物言いに、ついなってしまうわけですが。

だから、くだらないけど、「あの、もしかしてお読みちがえではございませんか。これというのも私の文章がわかりにくくて、意味がとりにくかったということかと深く反省しております。ぜひ今後の参考にさせていただきたいと存じます」とか、もう思いきり丁重でいやみでバカにした返事も出してやれないわけですよ。
いや冗談はさておき、私は昔から人の批判や悪口を言う時は、絶対自分の名を名のるか、少なくとも反論がもらえるように連絡先は記しておけと教えられたし、守ってるのですが、そういう点でも許せない投書でしたね。自分の間違いを訂正する機会を放棄してるって、私もたいがい傲慢なつもりだけど、こういう匿名の投書する人の傲慢さって、生きてることがもうすでに傲慢だって思いますね。

な~んか、文章全体もじた~っとしめっぽい書き方じゃあったし、この読み間違いぶりといい、あなたいったい大丈夫ですかとこっちが心配になる部分もあったんですけどね、それも含めてじっとりねばつくきもちわる~いものにさわった触感を今でも覚えています。

そう言えば橋本治さんの書いたもの読んでると、時々というよりもうしょっちゅう、「私、読めてないなあ、わかってないなあ、なんかすごく手の込んだ表現で、すごい悪口言われてるかもしれないなあ」とよく思うんですが、あれほど複雑精緻じゃないけど、到底ないけど、私もそこそこ手のこんだ意地悪を書きますからね。ど~せ誰にもわからないんだろうと思いつつ。それで、私でさえこうなんだから、橋本さんなどは、多分日常的にものすごく孤独だろうなあ、言語体系も理解してもらえない、未来からきた宇宙人みたいな淋しさを味わってるんだろうなあ、まあそれも自業自得ではあるんだが、などと、ぼんやり、ちらっと考えることもよくあります。シルクのスカーフを、あかぎれだらけの手でさわってるような。

いや、だからもう、ゆきうさぎさんの書かれているような単純な事実誤認を含めた読み間違いをされる方も、きっと大勢いらっしゃるでしょうね。でもそれはもう、しかたないんじゃない?誤解されることおそれて発言しなかったら、体内に毒素がたまるもの。(笑)

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カツジ猫