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こういうことかい(4)

石破氏も思えば古くからの政治家だ。
 数年前に九十八歳で亡くなった母が、まだ元気で身体も頭もばりばり丈夫だったころ、テレビで彼を見て「何と人相の悪い人だろうね」と言っていたのを覚えている。猫にも人にも面食いで娘の私の顔のこともぼろくそに言っていたから、そう悪口でもなかったかもしれない。中味についての批判は特にしていなかったようだった。

何となく石田氏の外見は顔も雰囲気も、そのころと変わっていない。むしろ、どこか無垢な少年のような印象さえ生まれて来ている。昔と変わらないからだろうか。回りの顔がひどくなりすぎたのだろうか。
 何より党内で孤立しているというのが、逆に私を信頼させていた。そもそも私は皆に嫌われているとか孤立しているとか聞くと、それだけでもう、頼りになる人と思いこむ悪い癖があって自分でも注意しているのだが、最近の自民党の中で人気がないとか孤立しているとかいうのは、どう考えてもほめ言葉にしかならないんじゃないか。

改憲派でタカ派で原発推進派というのも知っていた。しかし昨日のくり返しだが、高市氏と同様、自民党ではそれ以外の高望みはできない。そんなことより、皆に嫌われても生き残っている、最低限の政治家としてのルールやマナーは守っているというだけで、さしあたりは我慢できた。

そして、その点で私は高市氏をまったくとことんひとかけらも信用できなかった。
 あまり気にしてもいなかったから、何の件だったかも忘れたけど、この人けっこうしっかりと、「…が…とはっきりしたら責任取ります!」みたいなことを国会で断言して、大丈夫かいなそこまで言ってと、ひとごとながら心配した。その後、かなりはっきりして、彼女の言ってたことが嘘か間違いかわかったのだが、それに反論もせず弁明もせず、もちろん責任もとらずにそのまま放置した。

いまだにパリ視察の報告を出さないエッフェル姉ちゃんたちをはじめ、「時間がたったら忘れるやろ」で放置するのは自民党では老若男女関係なく珍しくもない。だが、何かを追求されて、公式の場で明確に否定し、「もしまちがってたら、責任取りますやめます」の最後の刃を抜いて相手を黙らせ、その場を逃げる、明々白々のスポットライトの下でそれをやってのける人は、さすがに自民党でもめったにいない。

こんなことを言ったのは、モリカケ問題で「私に関わりがあったら、総理はもちろん議員も辞任します!」と大見得切ったアベ元首相しかいない。私が知らなくて他にもいるなら教えて下さい。
 もちろんアベ氏はこの発言を口をぬぐってそのままにした。
 ごまかしもない。逃げもない。正面から堂々と、言い逃れようのない発言をして、それを忘れたように無視する。こんな世間でも通らない横紙破りを平気でやってのけるのは、アベ氏しかなく、それが権力の中心、政治のトップに存在したことの異常さと恐ろしさは、いまだに私には筆舌につくしがたい。

統一教会でも財界でもその他の何でも、さまざまの団体や組織が政治家にはからみつく。極論を言えば、それを完璧に無視して縁を切ることはできない。持ちつ持たれつの関係も当然生じてくるだろう。もちろん本来、政治家はそうであってはならないし、そうでない政治も可能とは思う。しかし、今の自民党にとてもそれは求められない。

だから、いろんなものが、くっついて来るし、利用しあおうとするだろう。しかしまた政治家なら、それらをうまく利用して、距離をとったり、かけひきをしたり、単純なべったりの関係にはなるまいとするだろう。保身であれ理想であれ、自分の主義や信念と、そういうえげつない相手が与えてくれる利益とを、秤にかけつつバランスとりつつ、何とか自分のめざす理想を守り抜こうとするだろう。まあ、大相撲やプロ野球やその他の実力と人気で生きる商売の人たちのファンやスポンサーとのかけひきも同様だし、他の世界でも家族間でも似たようなことは多いだろう。

話がまた四散して行きそうだから、荒っぽく決めつけておくと、私はこの点でアベ氏は実に無力な人だったと思う。そして高市氏もこの点で、かなりアベ氏と共通している。

ほとんど犯罪集団と言っていい統一教会が、あれだけ国家の中枢に食い込み、多くの議員や要職を侵食していたことを知ったとき、社会の驚きと不快と恐怖はとても大きかっただろう。私もその一人だった。いつの間に、誰にも気づかれずに、そこまで国家に食い込めたのかと不思議でならなかった。

一方でアベ氏の行うさまざまなことのすべてに対し、いつも私が首をかしげていたのは、「これは無能か悪意か?」ということだった。その見分けと仕分けが、彼の場合どうしてもわからなかった。実際、今でもわからない。

ただ、どこかで、この二つ(統一教会の跳梁と、アベ氏の不可解さ)が結びつくかもしれないという気がしていた。というか、それしか解釈がつかなかった。
 妄想かもしれない。そのぐらい根拠はない。でも、やっぱりそれしか考えられない。

統一教会がべったりはりつき、利用して、むしゃぶりつくすのに、アベ氏ほど無邪気で無垢で無防備な人は存在しなかったのではないか。

石破氏はもちろん、菅氏や岸田氏やその他の誰でも、保身からの臆病であれ、自分なりの政治信条であれ、感覚的な自己防衛本能であれ、そこまでは他者のされるままにならない、言うままにはされないしたたかさや計算高さを多少なりとも持っている。
 育ちがよくて恐いもの知らずで、しかも自分がよって立つ思想も信念も信仰もこれと言ってないアベ氏は、強固な意志と計算で迫って来るすべての勢力に対して、抵抗するすべをまったく持っていなかった。
 だからこそ、またたく間に利用され、ちぐはぐな勢力に引っ張られて迷走しながら、他者にはできない大胆で非常識な掟破りをくり返し、それをエスカレートさせるしかなかった。

私は「岸田はアベよりもまし」と人から言われるたびに、「それはちがう。やっぱりアベさんの方がずっと悪質で危険(有能でも賢明でもないけれど)」と言い続けた。岸田氏のことはまったく評価も支持もしないが、やめて早々すぎる親切すぎる評価にしても、私は彼は彼なりに、統一教会だか何だかに抵抗しつづけていたのではないかと思っている。消極的で無気力ではあったかもしれないが、そういう何かの思うままに突っ走らなかった点もあったのではないか。

多分、高市氏には、その抵抗ができない。
 アベ氏と同じではないにしても、強い支持勢力に対して、きっとされるがままになる。
 核になる信念も知識も理想もないから、いくら他のものでカバーしても本能的に防御はできない。
 短い総裁選の間だけでも、彼女のことさらひけらかす「大物感」や、私は見ていないが投票前のスピーチが浮かれすぎてて反感をかったという話や、その他のすべてから感じ取れるのは、「無邪気」「脇が甘い」「弱い」ということでしかない。最終段階で妙にタカ派を標榜したのは、それなりの計算だったかもしれないが、彼女にせよ、背後の勢力にせよ、読み間違いで、そこも頼りにならない。

自民党議員が彼女に投票しなかったのは、女性蔑視やらその他いろんな要素が混じったかもしれないが、根本は私などよりよっぽど鋭敏な「保身」の本能が働いて、その危うさを敬遠したのではないだろうか。

あと一回で、まとめます。無駄話と、今後の私のとるべき方向についてです。

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カツジ猫