こだわったる。
◇先ほど書いた、「家族が仲よくなるための間取り」に母の部屋「だけ」は「あえて」作らなかった、という大学生のレポートの件、下のツイログでいろんな人が意見を述べています。
私がこの件にびりびり反応してるというのは、多分現実にはお母さんの部屋がない家っていうのは、ものすごく多いと思うのです。私の知ってるだけでもそうだし、私の子どものころも祖母の部屋はなかったし、もちろんお父さんの部屋がない家だって多いと思う。それはまあいいんですよ。それだけだったら、それはそんなに気にならなかった。
何だかもうとことん絶望的な気分になったのは、「理想的な家族を作るための、現実には無理かもしれないけど理想的な間取り」の家にさえ、母の部屋はないという、この現実でしょうね。しかも「あえて」ないという。かなわないけど夢見てみる、そんな空間にも、母が自分の場所を持つことは許されないのか。もう本当に、私が死んでしまいたい。
◇どうせ家族が仕事や学校に行ったあとは、家は全部母親のものじゃないかと思う人もいるんでしょうね。でも、そういうこととはちがうんですよ。
実際に、そういう暮らしをしている人も多いのだから、こういうこと言うのはいけないのかもしれないけど、私がそういう家で、妻で母だったとしてもう絶対に耐えられないのは、一人で泣く場所もないんですよ。怒る場所も、考えをまとめる場所もない。楽屋がないんですよ。疲れた顔する場所もないんですよ。飛びこんで隠れる場所もないし、一人でうっとり夢見る場所もないんですよ。自分の好きなものも散らかせない。好きなかっこうで寝転がれない。夫に対する愛情や、子どもに対する不安について、じっくり集中して検討してみる場所もない。口に出しかかったことを、こぶしをにぎってぐっとこらえて、目をつぶって100数える場所もない。地獄だわ。
女や主婦はがさつだとかデリカシーがないとか俗物だとかヒステリーだとか感情を抑えられないとかよく言われるけど、そうじゃない方がふしぎでしょう。精神的な生活がまったく許されない環境で、常に仮面をつけて生きるか、本音だけでむき出しに生きるか、ほぼどっちかしかないんだから。
「遺産らぷそでぃ」という農家を描いたお芝居で、大家族の若い奥さんは煮詰まるとすぐ「畑(田んぼだったかな)に行って来る!」と行って家からかけ出します。そこしか一人になれないからです。それでも畑があるだけいいですよ。アパートや住宅だったら、そういう場所もない。そりゃ、喫茶店に入りびたるか、浮気するか、本持ってホテルに行くかするしかなかろ。
◇まあ私はもともと、学校、軍隊、その他もろもろの団体生活が大嫌いで、人が回りに四六時中いる環境っていうのが地獄ですからね。正直、映画の「大脱走」は大好きですけど、何で「独房行き」が懲罰になるのか、いまだに感覚的にはわかってないんじゃないかと思うぐらいで。
それと、単純じゃないのは、「昼間一人だからいい」という問題でもないのですよ。少なくとも私の場合は。
私が昔から一番好きだったのは、学校ででも家ででも、自分は一人で自分の部屋か、校舎の裏にいて、隣りの部屋や校庭の方で、皆が楽しそうににぎやかに騒いでいる声が聞こえてくる状態でした。
私のことを皆忘れている、私がいなくても皆幸せである。そのことを確認して、のんびりできる時間があるという状態が私にとっては天国でした。多分今でもそうです。
そこで争いが起こったり泣き声がしたり、不幸な人がいたりいやなやつがいたりしたら、自分が出て行って何とかしなきゃならないだろうとわかっていました。だから、できたら、前もって、そんなことにはならないように、いつも気をつけて、皆が幸福な状態を維持するように心を砕いていました。そうよ、「スーパーマン(バットマンでもアイアンマンでもスパイダーマンでもキャプテンアメリカでも、何だったら神様でも仏さまでもかまわない)の休日」というのが私の望む最高の幸せなの。
家族が家にいて、皆が幸せで、そのことがわかっていて、でも自分は一人でいられる、その状態が最高なのです。まあ、それは、キッチンで家族に背を向けて料理をしている状態でも、いいっちゃあいいのですけどね。でも、できたら、ドアの向こうか階段の下で、そういう幸福な世界があることを熟知しながら、一人でぼうっとしていたいわけよ。そういう孤独がなかったら、私はきっと家族を外部から内部から苦しめる、あらゆるものと太刀打ちし、戦う力を生み出せません。勝つ戦法を考えられない。
そういうことを漠然とでも理解できる人って、どのくらいいるのかよくわかりませんが、まあこういう感覚からでも説明しておかないと私の怒りの深さってのは伝わらないと思うのですよ。あくまで個人の感覚であり、一般にどれだけ通用するものなのかは知りませんけれども。
◇ああ、この怒りのおかげで映画「ディバイナー」の感想なんか、どこかへ飛んじゃった。落ちつき次第、きっと書きます。