これも「弓張月」?
菱岡氏の現代語訳「椿説弓張月」を読んでる内に、子どものころに読んだ講談社の名作全集の「弓張月」が見たくなり、古本で手に入れた。安かった分、かなり傷んでいたけれど、読むのに不都合はないので、るんるんと読んでたら、いろいろぶっとんだ。
子ども向きの本だから、エログロシーンはなくなっていて、猿が劣情を起こして若い女性をさらって塔の上に登る場面は、大事な地図を奪って逃げたことに変換されているし、為朝を売った悪人が白縫たちに殺される場面も、あっさりなぐり殺されたことになっていて、原作ほどの残酷さはない。こんなのはよくあることで、別に驚かない。
でも、為朝の家来?の中で忠実な狼の山雄と野風(私、最近会った人や学生の名はろくに覚えてないのに、小学生のころ読んだ二匹の名前は全然忘れていなかった)は原作通りの活躍だけど、子どもの本では十人近く出ていた家来たちが、原作では八丁礫の紀平治以外誰も登場していない。端役どころか、名前が出るだけ。私は隙間数えの悪七別当とか越矢の源太とか手取りの与次とかが皆好きで、彼らのおしゃべりややりとりも好きだったのにな。というか、子どもの本では、彼らが相当活躍し、ページも多くさかれている。その場面がいかにも楽しげに生き生きと悪乗りし過ぎなほど活気がある。
私はそこそこ大人になってから一応、岩波の古典大系で原作も読んでるのだが、どうやら頭の中で子どもの本の内容と合体していて、彼らの不在に気がつかなかったらしい。
それにしても大幅な改変というか補充がすぎるので、気になって解説や前書きを見ていたら、編者の高野正巳氏が、他の軍記物もとりいれて、「わたくし自身の空想」も加えたとあった。この全集の他の巻もそうだが、編者は皆、そうそうたる大文学者や研究者で、この方も文学博士で、児童文学作家である。同全集の「平家物語」の編者もこの人で、これも私は暗記するほど読んだ愛読書だった。
私の好きな、家来たちの場面がなくなっていても、原作はやっぱり十分面白いし、二つの作品に別に違和感もなく、少なくとも私の中ではごく自然に合体している。だからちっとも不満はないし、どこか得した気分もあるけど、それにしたって何だかなあ。菱岡氏は、よもやこの子どもの本も読んだのかしらん。完璧主義者だから読んでるような気もするが(笑)。


さてまた話はちがいますが、このブログをごらんになっている方の中には、読書好きの人も多いと思います。この前、Xを見ていたら、「石破首相は本を読みすぎたのではないか」みたいな投稿があって、目が点になるというのは、こういうことだろうなと思いました。たちまち嵐のようなコメントがついて、そのせいか、今ではこの投稿は削除されてしまったようです。
私は、以前ネットで知り合った方の中で、山ほど本を読んで立派な論文も書いて、一流の学術誌に掲載されてるような人でも、本の一冊も読まない男女でもちゃんと知ってるし守ってる人間界のマナーやルールも守れない、救いようのないほどアホでお粗末な人間を知ってますし、この投稿をした人の周囲にももしかしたらそんな人がいたのかもと思ったりするので、このコメントの数々に大笑いして喜んでも、全面的に肯定するのは、ちょっとためらいます。
とは言え、息をするように普通に本を読んだり文章を書いたりしている方々は、こんな見解が堂々とネットで開陳される時代になってきたことは、一応知っておいていただきたい気もしています。
念のために、もう一度アドレスを(笑)。
https://x.com/n_n9a_a/status/1955239532451991694