こんな詩もありました。
◇ネットをぶらついていたら、同じ安西均の詩で、こんなのもありました。明日は長崎に原爆が落ちた日です。
暗喩の夏
安西 均
うつむいて煎り豆を拾ってゐるすきに
世界が一瞬にして變ることがあるのだ
若い娘ふたりが
滿員電車で工場へ向かってゐた
戰爭の最後の夏だった
雜嚢に入れておいた罐から
煎豆が床にこぼれてしまった
その日の辨当代りだったのだらうか
娘たちは腰をかがめて
豆を探しつづけたさうだが
やがて頭をもたげたとき見たのは
《乗客も電車も窓外の景色も》燒けただれ
《無傷なのは二人だけだった》といふのだ
廣島で女學生だったひとが書いてゐる
われらが〈生〉にとって
つねに〈暗喩〉といふものは
一瞬だけずれる閃光に似てゐるが
もし地獄とやらにも
微笑があるとするならば
このやうなをかしさに違ひない。