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ちょうちょのまわし

朝夕はさすがに少し涼しくなったが、昼間の暑さは、殺しに来とるんかと言いたくなるぐらいのものすごさだ。幸い、蚊の攻撃が案外下火になった気がするので、昨日の朝は横庭のバラを二株植え替えて、あたりの雑草を少しむしった。まあまあ前進というか微進と言おうか。次は横庭の真ん中の草むらをむしったら、少しは見た目がよくなるかな。ついでに置きっぱなしていたバラの肥料をそれぞれの根っこに少しばらまいてやった。

何しろこんな風だから、買い物をして、花も買って帰って来ると、ばたっと寝てしまいたくなるのは何とか先延ばしにするとして、花を花瓶に活けてやるのと、ナマモノを冷蔵庫に入れるのと、どっちを何から先にするのか、熱波の中で迷ってしまう。筒井康隆の陰気な小説『虚人たち』だったかな、主人公が、まったく偶然に妻と娘の両方を誘拐されて、どっちも遠い別々の場所でレイプされて殺されようとして、テレパシーだか何だかで(ごめん、細かいことを忘れた)同時に彼に救いを求めて来るのに、どっちに行っていいか選べず悶絶する、この世の地獄みたいな局面をとっさに思い出してしまう。

椅子の後ろに積み上げた未読の本の山を崩そうとしているが、疲れすぎてて、すぐ寝てしまう。本来ならば固めの本の息抜きに読むための本の一冊、米澤穂信の『冬季限定ボンボンショコラ事件』を二日かかって読み上げた私も、ヤキが回りすぎている。

米澤穂信はあらゆる意味で好きなのだが、若い高校生の登場人物たちがあまりにもオシャレで聡明で洗練されているので、何となくひけめを感じて萎縮してしまいそうになる。楽しそうで明るそうで、どこかで暗く恐くなるのも、いつも予感させられて、緊張しつつ読むことになる。
 多分もうとっくに忘れ果てているが、幼いときや青春時代にこれを読んだら、私はひどくものがなしく淋しく、指をくわえて入れない世界をながめているような羨望や疎外感を感じたのではないだろうか。すごく好きなのに、手が届かない世界をながめているしかないような。
 今はもう、とっくにそんなことはなくて、かと言って子どもや孫のことを読んでいる気分にも全然なれなくて、自分が時代も年齢も超越した変な生物になったような、のんきな気分で読んでいる。それでも、前述したような気持ちが全然消えたわけではない。

昔愛読してハマった、「赤毛のアン」「シャーロック・ホームズ」「三銃士」「モヒカン族の最後」「ジャングル・ブック」などには、こんなやるせない淋しさはかけらも感じたことはなかった。ただただ夢中で、作品世界の中にとけ込み、帰るのも忘れて楽しかった。なぜなんだろう。わからないなあ。

買い物から帰ったら、玄関に知り合いの方がキュウリとゴーヤを下げて行って下さっていた。野菜が最近バカ高いから、キュウリも今日は横目で見て帰って来たところだったから、うれしかった。ピーマンと人参が安かったので買って来たから、しばらく野菜は不自由しないかな。

気がつかないうちに大相撲が始まっていた。高校野球とちがって、屋根もあってエアコンも効いてる中での熱戦は心安らかに楽しめるからいい(笑)。幕内の土俵入りを見ていたら、今日連続出場記録更新の玉鷲は、大きなきれいな蝶々の模様のまわしをつけていた。

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カツジ猫