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ちょっとびっくり。

◇生まれて初めて球場(ヤフオクドーム)に行って、ホークスとオリックスの試合を見て来ました。
今日ホークスの優勝が決まるかもしれなくなっていたので、もしそうなったら運がよすぎるのかもしれないけど、せっかく初めて見るのだから、もっと普通の試合でも悪くないなとか思っていたら、昨日ホークスが負けて今日の優勝はなくなり、ちょっと気がとがめました(笑)。

そうしたら、ドームの神の復讐か、はたまた最初の私の観戦を歓迎してくれたのか、4時間近く点の取り合いが続く熱戦で、いろんな要素が全部つまったような大変盛りだくさんな試合で、ぜいたくをさせてもらった気分です。

◇席は外野に限りなく近い内野の指定席だったので、すぐ隣の外野席で応援団が熱心に声をあげ続けているのを横目で見物できるし、自分はのんびり観戦できるし、ありがたかったです。2000円で、これだけ長時間の選手と観客のショーを楽しめるっていうのも、もうけもんだわ。歌舞伎やミュージカルだと、ほぼこの十倍だもの。

もちろん打席や投手や内野は遠くで、小さくしか見えないんですが、それでも生身の選手の動きを目で追えるのは素敵でした。でも、そうやって目で見ると、ほんとに外野って広い範囲をたった三人で守るのね。しかも相当ヒマなのよね下手すると。あれはきついわ。目の前のライトの選手は(上林と吉田)、投手が打たれてるときなんか、何だかぐたっとしていたし、吉田の方はときどき足をあげて柔軟体操とかしてた(笑)。

◇ホークスが勝ったので、最後に花火があがりました。ライトの洪水のような光のショーでおしまいかと思っていたら、マジでドームの天井に本当に、ばちばちどんどん、火花を散らしてあがるのには驚きました。
驚いたと言えば(私はにわか勉強しかしていないので、ホークスの選手たちしかあまり知らないんですが)、人気の高い柳田や松田って、現地で見ると、豆粒みたいに遠くで小さくても、どこか華やかで派手で、やってることは他の選手と同じことしかしてないのに、あの存在感はどこから来るんだろうとか、応援団がものすごくややこしいコールを各選手ごとのバージョンで何種類もやるので、どうしてこんなことができるんだと思っていたら、上方のスクリーンに字幕が出るようになっていて、それはそれでまたすごくないかとか、オリックスのスタメンの発表のときは大スクリーンに写真や名前が出るだけですけど、ひきつづきホークスの選手のスタメン紹介になったとたん、スクリーンの映像は動画に変わり、全球場が光と音とに満たされて盛り上がり、差別と格差がすごすぎて、そうかこれが地元ということなのかとか、いちいち笑ったり感心したりするのに忙しかったです。

◇その驚いたことの中でも、私のように球場に行ったことのない人だったら、多分絶対にわからないことを報告しておきます。
工藤監督が、今宮や明石にもまめにバントをさせてランナーを進塁させるのを、後ろの席のおじさん二人が「打たせりゃいいのに」と嘆いているのを、わあネットで見る通りの批判やんと感動?していたら、これもネットで言われてる通り、工藤監督は先発の中田を五回でさっさと降板させ、新人の石川に交代させました。中田は不安がられるわりにはきちんと投げることも多くて、今日も一点に抑えた上、打線がよく打って、三点リードしていました。

石川は先発や中継ぎやいろんな使われ方をして、ちゃんと役目を果たす立派な若手みたいですが、今日は何か調子が悪かったのか、たてつづけに四球で三人歩かせて満塁にしました。
私がびっくり仰天したのはその時で、ボールが先行してはランナーが四球で出る、というのが続いたとき、何とまあ応援団ではない内外野の全部が(オリックスの応援団もがんばってましたが、球場全体はほとんどホークスファンというのが、7回に風船を飛ばしたときにわかりました)、手にしたメガホンをたたいたり拍手したりして、投球のたびごとに、「がんばってー」という感じで激励しはじめたのです。

あんなこと今では普通なの? よくあることなのかしら? まあそれ言うなら、たてつづけに勝手に一人で四球出して満塁にする投手も、そういつもはいないでしょうけど。
本当に波のように球場全体が、ざざざーっと音を立てて、一球ごとにあたたかく投手を包みこむんですよ。私の感覚では虎の子の3点リードを、今にも食いつぶしそうな投手なんか、とっとと変えろとどなられてもしかたなさそうなのに。

しょうがないから私も入場したときにもらったうちわをたたいて、いっしょに応援してやってたけど、私が投手なら、こんなことされたら、ありがたくて感涙にむせびたくなる半面、申し訳なくて情けなくて、ますますろくな球は投げんのではないかという気もしてました。
そうかどうかは知りませんが、結局石川は満塁にした後、走者一掃の長打を打たれてリードしていた3点をあっさりとり戻されて、試合を振り出しに戻しました(笑)。

それでも観客は怒らないのですよ。「ばかーもう」という悲鳴も、「あーあ」というため息すらもなかった。さすがにその後はもう激励の拍手はなくて静かになったけど、それも何となく「プレッシャーかけて追いつめすぎたかもしれない。そっと見守ろう」って感じの静かさに見えました。いや絶対に気のせいじゃないったら(笑)。
それがよかったのか、その後の打者は石川はちゃんと押さえて後続を断ち、その裏にホークスはまた逆転し、次の7回からは監督は、いつものようにモイネロ、岩崎、サファテを繰り出して、「あー、これがネット民がおちょくるところの、サファテにセーブをつけさせるチームの忖度ってやつですか」と私が思ってる内に、試合は終わって、何ですかホークスのマジックは1になったようで。

◇球場に行ったことはなくても、地元の高校の試合とかは見たことがあるし、テレビやラジオや小説や漫画の印象もあって私がぼんやりイメージしていたのは、野球の観客ってぶちきれて選手や監督や審判をののしるのが仕事だということでした。だいたい、2ちゃんねるその他のネットでの発言ややりとりだって、そうじゃないのさ。

それが、今日の私の回りの客席では、大事なチャンスをつぶしても、三振しても、「最近打たんもんなあ」とか「どっちもどっちやなあ」などと、おじさんが小声で苦笑しながらつぶやく程度で、きわめつきが、あの「支えましょう」みたいな拍手のうねりですよ。

期待とまでは行かなくても予感していたのとは大いにちがった、このような美しい世界を見せられて、私は何だか落ちつかず、勝手がちがって薄気
味悪くなってたんですが、試合が終わって流れたアナウンスで「勝ち投手は石川」と聞いて、思わず吹き出し、この皮肉で理不尽な結果に、私のゆがんだブラックユーモア精神が満たされて、いい気分で帰れました。
出口の人ごみの中で、後ろのおじさんの一人が「あれで石川が奮起するか、落ちこんで行きづまるかどっちだろうな」と言っていましたが、むろんそれは投球結果の話で、勝ち投手のことまでは入ってないのでしょうけど、どうなんでしょうね。

◇ヘイトスピーチや沖縄の遺跡破壊や、その他もろもろ、世も末だと感じることも多い半面、今日の観客席の自然な良識やいたわりは、昔はなかったものだった。そう言えばヒーローインタビューへのデスパイネとモイネロのキューバ二人組に対しても、人種差別や社会主義への反発は誰にもどこにもかけらもないし、きっと誰の頭の中にも多分ないんだろう。
そういう点では世の中はとても洗練されてきている。一方で、どこかどんどん野蛮になってきている。同じ目でちがう世界を同時に見ているような混乱を感じる。

まあでも、とにかく面白かった。かわいい若い女の子たちが東浜だの甲斐だのの名前が入ったユニフォームを着て、せっせと応援しているのを見ると、まだ女性の野球ファンなどまったくいなかったころに、六大学野球にうつつを抜かして、追っかけをしていたという母の昔話も思い出した。
生きていて元気なうちに、連れてきてやればよかったな。でもあのころは私はまだそんな余裕はなかったものな。

そう言えば母は、戦争に行って死んだ野球選手たちの名前を、よく何人も数え上げて「あれだけでも私は絶対、戦争というものを許さない」と言っていたものだった。

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カツジ猫