どうしてるか知りたいって?
じゅうばこさん
何かもう、ひたすら、いらいらしています。
1月の末に本が出せて、それはもう、とてもうれしいし、神にも出版社にも他の皆さんにも感謝はしているんですが、その次の仕事に切り替える時間が全然、とれないのです。
本が売れるかどうか、評判がいいかどうか、気にならないと言えばウソになります。
でも、出してしまったものは、もう読者に判断をゆだねるしかないので、それより何より私は早く、次のステージに飛びたいのです。
じゅうばこさんがいつも、小説をひとつ書いたら即座に、がらりと変わった自分にならないと、見透かされそうで危険だと言いますよね?
私もそれと同じところがあって、本を一冊書くということは、今の自分のすべてをそそぎこむことだから、その地点に以前のままの自分で立っていたら、正体がわかって限界もわかって、ねらいうちされる!という危機感がすごいのです。
だから、一刻も早く成長し発展したい。本を書いたときの自分とちがう自分になりたい。射撃兵が敵を撃ったと同時に移動するように、それまでの自分から離れたい。誰よりも先に自分の本を批判できる力を身につけるために、未来に走りたい。
これまでだって、ずっとそうして来ました。いろんな事情があって、今回はそれがどうしてもできません。
このストレスは非常なもので、毎日が実際、拷問です。この状況は去年の暮れに大晦日も元旦も返上で、出版社に最後のゲラを出してから、もうずっと続いています。実は退職してからもずっとつづいていたのですが。この忙しさは。
どれが、誰が、何の仕事が、というのじゃないのです。積もり積もってこうなるわけで、人だって組織だって、これだけ私に負担をかければ、それは気づいて遠慮もするでしょうが、ひとつひとつは大したことでもないから、誰も気づかず、もういいよとは言ってくれない。その結果、毎日毎晩毎時間がどんどんつぶれて、仕事がたまる。
健康のためとかなり高い料金を払っているスイミングクラブにも、もう数カ月まったく行けない。半年前に通知が来ていた、歯の定期検診にもまだ行けていない。
年末にはとうとう血圧が上が200、下が100に近くなり、目の状態も悪化しました。大変なのだとそれとなく告げても、休んで下さいと言った人は誰もいなくて、私はきっと不死身と思われてるんでしょう。「なくてはならない人」になるのが幸せだなんて、私にはもう絶対に思えません。
かろうじて病院に行く時間を見つけて、薬をもらって治療しはじめたのですが、とにかく血圧の大敵は夜ふかしで遅くても12時には絶対に寝たい。なるべく10時には寝ようとしていましたが、それがうまく行くと面白いほど血圧は下がりました。それでも仕事の関係でそうも行かなくて、10時までに寝られたことはほとんどありませんでした。
強引にいろんな仕事を休んでサボって、血圧と目は次第に回復しましたが、徹夜や半徹夜で自分の研究をしていた身としては、そういう健康的な睡眠時間をとっていたら、夜はもう、まったく勉強をする時間がとれません。思いきり遊んで気分転換する時間もとれません。ゆっくり一人で喫茶店で時間を過ごして、することの優先順位を考えたり、今後の計画を立てたりという作業をしたくても、その時間さえとれないのです。
こうやって、全力を注いだ仕事から、早く逃げ出したいのに、一歩も動けないと言う、半狂乱の歯ぎしりの地団太ふむ状態がずっと継続しています。
私よりもっと優秀で、もっと若くて元気な研究者が、責任ある仕事をまかされ、学生の指導に打ち込んで、周囲からも上からも下からも頼られて、にこにこしながら受けとめていて、ある日突然倒れる、時にはそのまま死ぬ、という例を、この数年間いくつも見てきました。私は臆病ですから、彼らほどの才能も価値もない自分でも、やはり自分で守りたいです。だからもう、自分にできる以上のことはしないでおこうと決めてはいるのですが、それでも、この間、放りだして後回しにせざるを得なかった雑事や作業が山積みになっているのを見ると、ここまで自分を犠牲にして、他人や周囲を救おうとする力など本当に自分にあったのかと疑います。
とにかくもう、自分のことを優先します。でないと人も救えません。