ぼくが、さいごにのんだみず(カツジ猫)
みなさん、おはようございます
けさは、ぼくがしぬまえにのんだ、さいごのみずのはなしをします。
このしゃしんは、おふろばの、よくそうのなかに、
ぼくがはいっているところです。
おふろには、よくいったんだけど、かいぬしは、おゆにつかっていたりしていたから、
しゃしんは、こんなのしかありません。


ぼくは、いつからか、かいぬしが、おふろにはいっているときに、
すいどうのじゃぐちから、ほそくだしてもらう、みずをのむのが、すきになりました。
よくそうのふちに、てをかけて、せのびをして、
からだをくねらせて、くびをひねって、みずをのむのは、むずかしいけど、
それがまた、すきでした。

かいぬしは、もっとらくにのませてくれようとくふうして、
ふみだいをおいてくれたりしたけれど、どれもうまくいかなくて、
だんだん、ぼくもとしをとって、むりなしせいをとるのが、きつくなって、
しばらく、よくそうのそばにすわって、みずをみつめていたりするもんだから、
かいぬしは、おふろがぬるくなって、こまっていたみたいです。
ぜったいに、もんくをいったり、せかしたりはしないで、
さむいよるでも、ひなたみずみたいに、ぬるいおゆにつかって、
むりにわらいながら、じっとまっていてくれたけど、
さいごには、とうとう、じゃぐちのむきをかえて、
ぼくがせのびしなくても、のめるように、
みずのながれをかえてくれました。
いちじは、じゃぐちをとりかえようかと、
しんけんにかんがえていたらしいんだけどさ。
ぼくは、それで、らくにのめるようになって、
よろこんで、いつものんでいました。
かいぬしは、「いっかい、しゃしんにとらないと」と、よくいったけど、
はだかで、おゆのなかにいたし、かめらもそばになかったから、
「まあ、そのうちに、いつかね」といっていたら、
ぼくがきゅうに、たいちょうをくずして、しんだので、
けっきょく、そのしゃしんは、とれないままでした。

ぼくは、ここで、みずをのむのが、たのしみだったから、
いえのなかのどこにいても、かいぬしが、おふろにはいろうとすると、
おおいそぎで、かけつけました。
「いったい、どこにいたの、よくわかるねえ」と、かいぬしはあきれたり、
「あんなによくねていたのに、どうして、きがついたの」と、
かんしんしたりしました。
ぼくが、こないときは、ふろばの、がらすどを、すこしあけておいて、
がらすに、ぼくのくろいかげがうつると、「はは、きたな」と、
おゆのなかで、よろこんでいました。
ときどき、はをみがいたり、せんたくしたりするのに、
かいぬしが、だついじょうにいくと、ぼくがおふろかとおもって、
すぐやってくるので、かいぬしは、
「ふらいんぐだよ、かつじ。おふろじゃないの」と、
わらいながら、ぼくをみおろしていました。
ほんとうに、おふろにはいるときも、
ぼくが、はやめにかけつけると、
かいぬしは、まだふくをぬいでいなくて、
「まってよ、かつじ、もうちょっとまって」といいながら、
あわてて、したぎや、くつしたをぬいでいました。
ぼくがちょっとまたされると、つまらなさそうに、
すぐ、ひきあげてしまうからです。
たいちょうがわるくて、つかれているときは、
いそいでぬぐのも、たいへんなようで、
「わーもう、まっててったら」と、あせっていました。
ぼくがしんでから、ひとりで、おふろにはいるとき、
「あー、もう、あわてないんでいいんだ」と、ほっとしたように、
ちょっとつまらなそうに、いっていました。
「おまえがいないなあと、いちばんかんじるのは、
せんめんじょや、おふろばにいくときだよ。
あしもとに、いつもおまえがいるようでさ」と、いまもいいます。
いるんだけどな。みえないだけで。
しぬまえの、いっしゅうかん、ぼくは、つかれて、
なにもたべるきがしなかったし、
みずも、のむきになりませんでした。
それでも、ふつうに、あるいたりねたりしていたから、
かいぬしは、「おまえ、つよかったんだねえ」と、おどろいていました。
じっさい、ぼくは、しぬきなんかぜんぜんなかったんだよ。
しんだことないから、わかるはずないじゃんよ。
とにかく、つかれて、ねむかったけど、
それでも、おふろのみずおとがしたから、いってみたら、
かいぬしが、いつものように、みずをだしてくれていました。
ぼくは、ずっと、みずものまないでいたから、
どうしようかとおもって、ながいことすわって、かんがえていました。
かいぬしも、「どうした、かつじ」と、ふつうにいいながら、
ぼくをみて、わらっていました。
ぼくは、ひょっと、のんでもいいきぶんになって、
たちあがって、ちかづいて、いつものように、みずをのみました。
おいしかったので、かなりたくさん、のみました。
かいぬしは、うれしそうに、それをみていました。
たっぷりのんだので、ぼくは、ひきあげました。
そのあとは、またのみたくなくなって、
おふろにも、いかなくなりました。
それが、いきてるときに、ぼくがのんだ、
さいごのみずになりました。
「おまえがさいごに、みずをのんだばしょを、
はっきりしっているなんて、わたしはうんがいいのかもね」
と、かいぬしは、みえてないはずのぼくに、いいました。
そういわれたら、ぼくも、そんなきがします。