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ゆううつの、てんまつ

ご希望もあることとて(笑)、昨日の誕生日前後の、しょうもないいきさつをお話します。

セキュリティもあるから詳しい話は省きますが、私は自分の誕生日の当日や前後には、旅行や外食をして、友人知人やときには一人で、大いに楽しむことにしています。体調もぱっとせず、足腰も弱る一方だから、まだ比較的自由に動ける間は、せいぜい急いで、そういうことをして、この世の楽しみを大いに満喫しておきたいという年寄りのささやかな野望です。

今年もそのつもりでいたら、出かける直前に、いつもバースデーカードを送ってくれるありがたい方からお手紙が届き、お花を贈ったから宅急便でとどくでしょうというお知らせ。

ぎゃあっとあわてたのは、数日留守にするわけだし、忙しいご近所の方や、いつもお世話になる友人知人に一日わが家に張り込んで受け取ってくれなんて、とても言えない。第一もう出かけるぎりぎりの時間で、そんな依頼やお願いをしているひまもない。荒っぽいことしたら、それこそ今後の老後にあたって大切なおつきあいを失いかねない。

かと言って、ほっとけば宅急便の人にも迷惑、お花もかわいそう、誰にとってもいいことない。私は時間を気にしながら走り書きで、「不在で受け取れませんから、すまないけど、そのお花はキャンセルするか、あなたに送り先を代えて、代わりに楽しんで」みたいなハガキを彼女に出して家を飛び出しました。

それにしても、いったいどうして、まだ寝たきりにもなってない一人暮らしの年寄りが、来るかもしれない人やプレゼントを待って、誕生日を一日家で過ごすなんて考えちゃうのだよ。そもそも何年も前に実は似たことがあって、外食で豪遊する予定が、ずっと家で宅急便を待たなくてはならなくなり、お花が届いたのはなぜか深夜、外食の予定だったから食材もケーキも何も買ってなくて冷蔵庫はすっからかん、もちろん食事に行ける店など、とっくにどこも閉まってる。泣きそうになりながら空きっ腹かかえて水だけ飲んで寝るという、生まれてあんなにみじめで悲しい誕生日を過ごしたことない、きっと死ぬまで忘れないという素敵な(皮肉よ)夜を体験しました。せっかくのお花も見るのがつらくて、次の日人にあげてしまい、送ってくれた人の気持ちを無駄にした自己嫌悪もあって、まっ黒くろすけみたいな数日をすごしたのさ。

考えてみれば、寝たきりになってても、それはそれなりに受け取るのも大変だし、もしまた私に家族がいて、皆で旅行や食事に出かけることにしてたとしたら(この前海外ドラマの「ダウントン・アビー」で、結婚式のお花が届くから、誰かが受け取るのに家にいなくちゃね、と令嬢たちが言い合ってる場面があって、あの大邸宅の使用人がわんさといる家でもそうでしょ)、誰かが残って受け取らなくちゃならなくなり、それはそれで絶対に深刻な家庭トラブルが起こるわな。

いったい、こういうサプライズを考えて下さる方って、どういう家庭や生活をイメージしておられるのか。突然届いたお花を抱えて、まあ!と喜びに私が打ち震える姿を想像して幸せになるんだろうか。いやそりゃたしかにそういう方もきっとおられるだろうし、お心遣いは感謝しかないけど、でも来るかもしれない幸福を待って、家に閉じこもってすごすほど、私は弱気でも強気でもないのだよ。自分でしっかり楽しむ予定をぎゅうぎゅうづめにつめこんでて、その流れをこわされるのって、本当に困るのよ。

事故りそうになりながら車で回り道して、郵便局のポストにハガキは放り込んだけど、そっから集配してもらったって、多分もう間に合わない気も次第にしはじめて、美しい景色も楽しいドライブも、だいぶ割引されました。
 旅先ではあまり予定も入れないで、のんびり時間をつぶしたかったけど、どうしても気になってしまって、無茶は承知で、いったん家に帰りました。郵便受けの不在連絡票をもぎとって、家にも入らず引っ返し、あれこれ苦労して宅急便の本社に電話をつなぎ、差出人に差し戻してくれるよう手続きをして、ほっと脱力しながらまた旅先に戻り、この混乱も予定のずたずたも、それなりに楽しみさ、おかげで来年のリベンジを楽しめるじゃないかと自分を慰めながら、あらためて贈り主にお手紙を書こうとして、彼女の手紙を読み直したら、最初は生花を送ろうとしてたけど、結局フェイクの花にしたとわかって、ああっ、そんなら放っておいて、後で受け取ってもよかったんだ、せっかくの彼女の気持ちを傷つけて無駄にしてしまって、自分も旅を大幅にめちゃくちゃにしただけかと思うと、もうどさーんといろいろ、自己嫌悪。罪悪感。ええ、自分の間抜けやへまをしっかり自覚して今後の人生に生かせるという、誕生日の最高なプレゼントをいただいたわよ(やけでーす)。

花をいただくのはうれしいんだよ。でも、だからこそ、くやしいんだよ。受け取れないで相手の気持ちを無にしてしまうのが。だからせいいっぱいに何とかしようとしたあげく、かえって、ろくなことにはならない。

私だって、自分の重い本をご高齢の先生に送りつけて、多分郵便局までご足労させてしまったみたいな経験は数えきれない。だから人のことは言えないんですが、だけどやっぱり、相手の都合を考えない、自己満足のサプライズはどんなものでも大嫌いになってしまった、こういうことがいくつかあると。

大きなお世話じゃありますが、何かのイベントのとき、相手が家に居て、ずうっと待たなければならない花だのケーキだのを贈られるときは、一応よくよくご配慮なさって下さいね。下手すりゃ相手の幸福をぶちこわすことにもなりかねません。

あーあ、私はこういうことを再確認していると、怒りがあらためてめらめら燃え上がるのが普通なんだけど、こうやって書いてると、いつもとちがって、何だかものすごくうらぶれて悲しくなってきちゃった。そんなとこです。何かもう、どうでもいいや。忘れます。せめて笑って下さいな。慰めたりはしなくていいから。

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カツジ猫