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アンソニー・パーキンス。

◇「渚にて」のDVD見てたら、アンソニー・パーキンスのオーストラリア海軍大尉が、朝の目覚めの幸福なひととき、赤ちゃんのミルクをあっためて飲ませて、紅茶もいれて、それをベッドで寝ている(別に病気でもうつ病でもない健康そのものの…まあまもなく放射能で人類全部といっしょに死ぬことにはなってるわけだが)若い妻のところに持って行って、おはようのキスする冒頭の場面があった。奥さんはものうげに目を開けて「あらー、あなた、ごめんなさい」とか言わずに「赤ちゃんにミルクあげた?」と聞く。

やだもうこれ、1960年ぐらいの映画じゃないの。それで、この夫婦は典型的な幸福な普通の健全な家庭で、別に特にフェミニズムでもジェンダーでもない平凡な人たちの代表みたいな描かれ方なんだよ。現代の日本で、こんな夫婦の朝の情景描いたら、不自然だ異常だ非常識だときっと炎上するんだろ。周回遅れどころの騒ぎじゃない。

◇ついでに、アンソニー・パーキンスの、そんなに有名ではないが、昔はDVDもビデオもなかったから、ちゃんと劇場で公開された「おれは知らない」(原題は「犯人は二人」だっけ。劇場公開と、私が見たテレビ放映のときは、たしか題がちがってた)という映画があって、これは、ある殺人事件の犯人二人を警察が灯台に追いつめたら、同じようなかっこうの黒いシャツとズボンの若者三人が出て来てしまい、一人は偶然そこに居合わせた無関係な無実の青年なのだが、どう調べても、それがどの一人かわからない、という話。

どうせ古い映画だし、ネタばれしますが、結局三人とも怪しいので、裁判所はどうしたかというと無実の者を罰するわけにはいかないからと、三人ともを無罪にする。ところが、その直後怒った民衆が護送車を襲って焼いて、三人を皆焼き殺してしまう。映画はそこで終わるので、結局誰が無実だったのかは観客にもわからない。

◇何でそんな映画のこと思い出したかと言うと、例の東京医大の女性差別入試事件で、大学前で抗議集会していた人たちの前を、「性差別バンザイ」と言いながら男子学生たちが通り過ぎ、警備員は笑っていた、という参加者の報告を読んで、そんな学生と警備員は護送車につめこんで焼き殺せと思った、という話ではなくてですね。

まあそんなことしたくなるやつの気持ちも、わからないではないんですが、どうせどういう反応したらいいのか思いつかないんでしょうけど、ただ私、今回のこの問題では、女性と同等かそれ以上に、不正入学させられた男子学生たちこそが、震えるほどに怒らなくちゃいかんと思うのですけどねえ。彼らもばっちり被害者ですよ。

だって一生ついて回るんですよ、「合格点とれてなかったのに、入ったかもしれない学生」という肩書が。そして、そういう学生も確実にいるわけですけど、落とされた女性以上の点数をちゃんととって、正しく合格した男子学生だっているわけですよ。それはひどいよ。「おれは知らない」の無実の青年みたようなもので。いやもっとひどいか。映画の青年は少なくとも本人は無実だってわかってる。東京医大の男子学生は、自分がちゃんと合格したのか、そうでないのかさえわからない。やりきれんなんてものじゃない。そりゃ、やけで「性差別バンザイ」とか言いたくなるかもしれない。知らんけど。

◇女子学生たちが裁判起こすなら支援する、と言っている弁護士さんたちもいて、当然だし、頼もしいし、うれしいけど、でもついでに、男子学生が裁判起こすなら、それも支援する、と言ってくれないかしらん。
彼らにだって、そうする権利はありますよ。合格点をとってた者だけでなく、不正の結果合格した者でさえ。だって本人は知らないまま、不正合格させられたわけじゃないの。それは、決して幸運でも幸福でもないよ、どう考えても。

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カツジ猫