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バカにおしでない。

◇大学時代の同級生に、おとなしそうで超したたかな(ほめてます)女性がいた。長く高校の先生をしていて、今は行政のトップに近い仕事をしている。彼女が教師をしてた頃、しとしとやわらかな口調で、次のような憤懣をぶちまけたことがある。
「生徒たちにこの前、あることで厳しく注意をしたの。その時カゼをひいてたからたまたまちょっと鼻声だった。そうしたら後で一人が『反省した』って書いてきたんだけど、『先生が涙声でおっしゃったのを聞いて、いけないことをしたとよくわかりました』とか書いてる。何てことなの。バカにしてるじゃないの。私の言ってる内容を理解して納得して反省してるんじゃないのよ。私が泣いてたとまちがえて、それで反省してるのよ。そんなの、ただの感情じゃない。本当にバカにしている」
彼女は本気でかんかんに怒っていました。

◇昨日、例の何とか細胞の件で、責任者の一人の研究者が記者会見していました。
前につい見てしまった女性研究者の会見が、あまりに気持ちが悪かったので、それにこりて、いいかげんに適当に見ていたのですが、今回のは大変わかりやすく行き届いた説明でした。
まあこれが普通なのかもしれません。前回の女性研究者の会見の異常さで、私の期待水準がどん底まで落ちているのかもしれないから。

しかしとにかく、事態を正確に伝え、誰も傷つけないようにしながら言うことは言い(笑)、シロウトにも一般人にもわかるように、特殊なことや難しいことを、きちんと平易にかみくだいていて、いらんことは一言も言わないし、しかもかなりなことまで踏み込んで率直に言うし、もうすべて、疑問の余地がないというか、つけいるすきがないというか、学者としても人間としても、よくできた信頼できる人という感じが伝わって来ました。

まあそりゃ当然ごまかしてることや隠してることもあるのかもしれないけど、公式に人前で発表する内容としては、何とか細胞に関する学問的な説明もふくめて、十分だったと思います。

◇しかし私がずっこけたのは、そして最初の同級生の女性の話を何十年かぶりに思い出したのは、2ちゃんねるとかで誰かがしゃべるならともかく、一応ちゃんとしたテレビ番組や大新聞が「わかりにくい」とか「自己弁護」とか「何とか細胞はある」とか、どうやったらそういう風にまとまるんだという反応を堂々とやってることで、いったいこの国の聞き取り能力ってやつは、まったくどうなってるんだ。

どっかのテレビじゃ、大学教授の女性が「理科系の話はわかりにくい」とか言ってて、彼女は文科系らしいけど、やめてくれー、たのむから。私も文科系だけど、あの会見で話されてたことは、理系文系関係ないどころじゃない、一般社会、日常生活次元でのものごとの判断基準で十分通じる話だぞ。それ以上に複雑なことや専門的なことなんか、あの会見で何も言われていないって。

まあね、あれ以上に詳しい話になると、そりゃ嘘つかれてもわからないってことはある。でももうそこになったら、私に細胞作れないし、フォアグラも作れないし、飛騨の木工細工も作れないし、黒いチューリップも作れないし、知らんもんね、作ってる人にまかせるしかない。
そこは専門家を信じるしかないって範囲なんですよ。
そして、その手前までの、しろうとがチェックできる範囲では、今回の会見での説明は理解できたし、納得できた。というか、そこはもう、信じるしかどうしようもない。

今回の会見が前回の女性研究者のと一番ちがうのは、「ここから先はわからない」「それについてはわからない」「考えられる可能性はこれとこれだけど、それ以上はわからない」と、回答を保留し、結論を出さない部分が多いことです。それが科学者としては一番大切なことでしょう。なのに、そこを、白か黒か言わせよう、言わなきゃ信用できない、という報道陣の姿勢が私には恐い以上に、もういっそ笑えました。んなこと追及してもしゃあなかろうもん。もっと明確な答えの返ることは、他にいくらでも聞けるだろうに。

◇で、つくづく思うのは、きっぱり断言したり、泣いたりしたら、それで納得し信じるんだよね。回答保留し、その理由を説明しても、理解できなくて思考停止におちいって、「理系はわからん」とか寝ぼけた話にすりかえるんだよね。一流ジャーナリストでも、そこらの大学教授でも。
同級生の女性が怒ってた、涙しか見てない生徒の反応も笑えないってことか。そりゃ、泣き落としの悪徳商法がはびこるのもようわかるわ。

例の女性研究者は、今回の会見の感想聞かれて「先生に申し訳ない」と泣いたとかで、私なんかは「ほー、つまり反論することは何もないってことだな」としか思えないんだけど、こーゆー世の中を考えると、これは案外正しい高等戦術なのかもしれんなー。さしあたり泣いときゃ、世間は味方になるみたいな。
あー、なめられたもんさね。私も、あなたも。

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カツジ猫