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プリンセスと魔法のキス。

前のつづきです。

「プリンセスの魔法のキス」は、舞台をアメリカ南部にした設定が面白く、こういう所、現代の人権感覚やフェミニズムと、おとぎ話との折り合いを、ハリウッドのアニメは実に精緻に自然に細やかにやってくれるなあ。作る人たち、作らせる人たち(世間とか大衆とか)の思想や信条の骨太さや深さがひしひしと伝わってきて、安心して楽しめる。

たださ、そうなんだけど、その分、きれいなお姫さま王子さまを映像として楽しめるという点が犠牲になってるのは否めないんだよなあ。主役ふたりのカエルになった姿は、めいっぱいかわいくしてあるんだろうけど、やっぱり、ほれぼれしていつまでも見ていたいってほどではない。「カンフー・パンダ」のメタボなパンダとか、「美女と野獣」の野獣とか、この映画でもデブなワニは、いわゆるキモかわいいというやつで、それなりに目を楽しませるのだが、カエルの造型は、ねらっているのがどのへんか、やや中途半端な感じがした。まああれは、欧米圏では美しく見えるのかもしれないから、知らんけど。

それでもカエルやワニはまあどっか美しく見せようという努力はわかるけど、もう、どんな意味でもどの一点でも美しさとかかわいさとかいうものを徹底的に家捜ししてチェックして排除しつくしたとしか見えないのが、脇役のホタルで、寸分のすきもなく外見がかわいくない。ここまで、つけいるすきなく醜くしているのは、むしろつくづく感心する。

そして、そのホタルが、最も格差の大きい手の届かない美しい存在に真剣にあこがれ、それにふさわしい生き方をしようとする、もう絶対にどんな意味でも狂気としかみえない行動が、精神が、この映画中、最もというより、けたはずれにすごくて徹底していて、これにくらべると、王子と結婚しようとする貧しい娘のあこがれや野望など、別にもう、あこがれにも野望にも見えないほど、そのへんの堅実で普通の望みに見えてしまう。

スケールと激しさの点では、この映画の「夢をあきらめず、高きをめざし、それにふさわしい生き方をしよう、たとえ虫けらでも」という「ラ・マンチャの男」の「見果てぬ夢」級のアピールを観客に訴えているのは、このホタルなので、そのすごさは見ていて私でさえ不覚にも涙しそうになったぐらいのもんだが、はたしてそれでいいんだろうかね、映画のバランスとしては。

とにかく、ただの脇役、それも全体すきなく魅力ない脇役が、あれよあれよという間に、そういう壮大な恋に殉じてしまうので、不意をうたれすきをつかれて、はあっと恐ろしく感動してしまうのです。私でなくても誰でもそうだと思うけど、この映画で印象に残るのは何よりもまず、あのホタルの恋でしょう。「電車男」や「人魚姫」どころではない、あまりのすごい格差だもんなあ。

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カツジ猫