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三毛猫シナモンのこと

運動会も無事終わり、明日からようやく、たまった自分の仕事ができます。
三毛猫シナモンが死んで、もう一週間たちました。今もまだ、彼女がいた古い方の家に入ると、どこかにいるような気がします。
二年ほど前、この古い家の前の空き地が売りに出て、いろいろあって、そこを買って、小さい新しい家を建てました。カツジ猫をそこに移して、二つの家を行ったり来たりしていましたが、これまたいろいろあって、古い方の家が散らかりっぱなしでした。いいかい、シナモン、その内絶対ここをきれいにして、おまえと優雅に住むからねと何度も私は彼女に約束したのですが、なかなか果たせず、彼女の具合が悪くなってから必死になって片づけて、どうやら居間も寝室も書斎も台所も、そこそこ人を呼べるぐらいに居心地よくきれいにしたのですが、もうその頃はシナモンの病気はかなり悪くなっていて、思い切り楽しいバラ色の日々を暮らすというわけには行かなかったのが残念でなりません。
 
とはいえ、彼女はいつもきげんよく、散らかっていても病気になっても、変わりなく私のそばに来て、くつろいでいました。
最後の一週間ほどは、さすがに彼女も動くのがしんどくなったようで、こたつやベッドや書斎の椅子から移動するとき、途中で廊下や床に寝そべって休んでいることがよくありました。彼女はもうかなり前から体温が低くなっていて、そのままだと死にそうだったので、こたつやエアコンを最弱にして、いつも温めるようにしていました。実際それでかなり、もち直したのだと思います。しかし、ときどき暑くなるのか、こたつから出てきて涼んでいるようでした。私は頃合いをみては、抱いてそばに連れて来るようにしていました。彼女は私といるのが好きでしたが、時々は一人になりたそうで離れて行くこともあり、そのへんは好きにさせていました。
 
もうその頃は毎晩ずっといっしょに寝てやっていたのですが、昔から彼女は自分だけのときはふとんの中に入るのに、私と寝るときは、いつも枕の上で私の頭にまきつくようにくっついて、自分の頭を私ののどに乗せて寝るのが癖でした。抱えて移動させると、いつもしばらくはじっと座っていてから、ゆっくり横になっていましたが、最後の数日は、よくよくきつかったのか、おかれたままにぺたんと枕の上にはりつくように、長くなっていました。
私はそんな彼女の脚や頭をなでながら寝ていましたが、しばらくすると彼女は何かを思い出したようにふいと起き上って、以前と同じように私に近づき、頭にまきつき、私ののどに自分の頭をのせました。身体どころか顔までも、そろそろやせて、ほおがこけていましたが、そこまで接近するとそれがわからず、昔のままの白いかわいいまん丸い顔が、常夜灯の淡い灯りの中で、目を開けるといつもすぐ前にありました。
死ぬ前の最後の夜は、どうした加減か、彼女のわき腹が私の左耳をぴったりふさいでいて、やわらかいあたたかい毛の奥で、とくとくとくとく彼女の心臓が脈打っている音がずっと私の耳に届いて来て、それを聞きながら私は眠りました。彼女の動悸を聞いたのは、それが最初で最後でした。
 
十四年前に死んだ金色の猫キャラメルは、最後のころはいつも前足のつけねを指でさぐると、動悸の音がわかったので、死ぬ時も私は彼の心臓の音が次第に静かに間遠になって、すうっと消えて行くのを指で知りました。でもシナモンは私に抱かれていても動悸を確かめられず、なので、正確な彼女の死亡時刻は確認できなかったのです(笑)。苦しそうに何度かあえいだ後は、すうっと静かになって、でも手をゆるめても頭ががくんとのけぞるでもなし、シナモン、大丈夫?と声をかけたりしている内に、目を閉じてやろうかと思って指でなでると、もうまぶたが動かなくなっていて、急いで何とか目を閉じてやって、いくら何でもこれはもう死んでいるのだろうと椅子に運んだ時は、もう身体が固くなっていました。
何だかこう、もう最後まで、人を悲しませない、哀れをさそわない猫でした。おかげで涙が一滴も出ません(笑)。

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カツジ猫