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不思議な出会い(2,これでおしまい)

昨日の話の続きなんですが、その前に(ひっぱるなあ。笑)。
 昨日の、いただいた花束はやっぱり水揚げができないで、しおれてしまって復活せず、花は皆、首からくったり曲がってしまって、よみがえりそうにない。やっぱり、飢え死にしてもいったん家に帰るべきだった、今度からは直帰できない時はおみやげはお断りしないと、などと反省しつつ、あんまり残念でくやしくて申し訳ないので、思い切って花の先だけ切って、例の、猫が水を飲んでくれない水盤に浮かせて見た。そうしたところが、何とたちまちしおれていた花が皆みごとにきれいに開いて、鮮やかな色を見せてくれた。それからかなり時間がたつが、ずっと変わりがなく、しばらくはこのまま楽しめそうだ。負け惜しみで言うと、花びんに普通に入れて飾るより、何だか華やかで素敵な気がする。この水盤にもよく合うし。葉っぱがあったらもっといいのかな、でもない方がインパクトがあっていいのかな。などと迷いつつ、とにかく、ちょっとほっとした。

さて、そのランチの時の出来事。私が一人でポークのしょうが焼き定食などをがっついていると、隣に座った上品な老婦人が、「お一人ですか?」と声をかけて来た。最近私はマッサージ店やいろんなところで、このような上品で人なつこそうな奥さまからときどき声をかけられる。私のオーラが変なのか、こういう方が多くなっているのか。「はい」とお答えすると、一人もいいですね、別におかしくないですよね、みたいなことをおっしゃって、もしかしたらご家族や連れ合いといつも食事をなさって来た、ヨーロッパ風の(知らんけど)生活に慣れておられて、ちょっとおひとりさまは変じゃないことを確認したくていらっしゃるのかなと思ったりしつつ、いやまあ人とも来ますけど、一人で出歩くのも悪くないです、映画なんかも一人で見ますね最近はなどとさりげなく楽しくやりとりをしていた。

お仕事の打ち合わせはどうなさるのかみたいなことも話して、私がいやー、今は家が散らかって人を入れられないから、こういうとこで会うこともありますねとか応じ、それからどうかこうかして、一人暮らしや闇バイト強盗の話になり、私がつい悪乗りして、いらいらしてる時なんかは、そういう人が侵入して来て刺し殺したったらすっとしそうでとか考えますと言うと、奥さまは驚きもなさらず、そうね、正当防衛で通りますもんねと、さらりとうなずかれた。

若い人も闇バイトしなくてはならないほどせっぱつまっててかわいそうですよねとか、不景気で物価高で、しかも今の人は回りと何でも比べなきゃ安心できないから、お金も使わないといけなくなるし、などと言い合ってる内に奥さまのランチも運ばれて来て、どうやら私が迷って高すぎるからやめた牡蠣と帆立のパエリアか何かのようで、それを上品につつかれながら、話ははずんで社会情勢から世界情勢から政治情勢になり、どうしてプーチンを誰かが殺さないんでしょうかねとか、トランプなんてもう最低ですとか、萩生田だけは落選させなくてはいけなかったのに残念でならない、有田さんはとても立派でいい人だが、もっとインパクトのある勝てそうな人をぶつければよかったとか、高市さんが大嫌いで顔も見たくないとか、テレビはグルメ番組ばかりで、それを貧しくて食べられない人ばっかりが見てるんですよねとか、何から何まで細かいところまで意見がぴったり合いまくって、途中から私は、自分がぼけて白昼夢を見ているのではあるまいか、一人で自問自答をしているのではないか、AIか何かを使ったモニタリングの実験材料にされてるんだろうか、ハニートラップか結婚詐欺もどきに私は誘惑されているのじゃなかろうか、こんなにしっくりぴったり意見もセンスも合う人なんて、家族にも親友にもいなかったのにと、そぞろ不安になって来た。

ほんとにアドレスか何か交換して、おつきあいしたいと思いつつ、でも今さら無二の親友ができたって私の余生もそう長くないし、これ以上つきあいや冒険を手広くやるパワーはなさそうだし、とか、何よりこんなに話がうまく行きすぎるのが幸福すぎて恐くなって、車の中の花束も気になるし、「本当に楽しかったです、お先に失礼します」みたいな感じで、先に席を立ってお別れしてしまった。コーヒーでも飲んでもうちょっとおつきあいしたかったけど、これでやめておくのも何だか楽しそうでもあって、ついそうしてしまった。

まるで後悔はしていない。でもまだ夢を見ているようだ。私がまだ会っていない、死ぬまで会うことのない人の中に、あんな方もまだまだたくさんおられるのかもしれないと思っただけで、元気とも勇気ともどこかちがう、不思議な気分が心の底からというよりも、肌のあたりから身体全体をふわふわ包んで来る。

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カツジ猫