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二者択一。

◇Kumikoさんのツイログが、東京医大の不正入試に関する怒りをずっと書いてくれていて、ありがたい。

https://twilog.org/Kumiko_meru

◇ただ、ひとつだけ、「男性が女性は受けていない差別を受けている例が、どうしても思いつけない」(映画のレディースデイとか女性専用車両とか、そういう水準じゃない、もっと重要な、人生や生活を左右する、あるいは、それはそもそも女性への差別から生まれたもの以外では)と言われているのだが、私は「戦争に行って人を殺し、自分も死ぬ役割を負わされている」ことは、それにあたるだろうと思っている。

◇私は昔、戦争反対の理由を考えるとき、戦争を想像するとき、自分が戦う兵士としてどうだろうとばかり考えていた。占領されてレイプされるとか、女性ならではの悲劇や危険や恐怖について、おかしいほどに、これっぽっちも考えなかった。悲惨過ぎてみじめすぎて、恐ろし過ぎて、向き合えなかった。このように、いつも自分の最大の恐怖や懸念を男性に仮託してでないと空想できないというのは、私の限界である。

でも私は、それこそレディースデイとか日傘とか、くだらん男性差別を指摘する前に、男性がなぜ、戦争に行かされることを男性差別として告発し抗議しないのか(してる人もいるかもしれないが、私の耳目には触れて来ない)というと、多分、昔の私と同じ心境で、「いざとなったら、権力も体制も常識もすべてが、男性が殺し殺される仕事を受け持つということを、当然のこととして了承し遂行する」という、この恐ろしい事実の前に、思考停止する他なくているのではないかと思うのだ。それは、どんなに恐ろしいことか。どんなに絶望的なことか。殺し殺される役割をになって生かされているということは。そして、自分と同じ人類の半分(女性)が、ほぼ無条件にそれから免除されているという差別が、公然と認定されていることを、私だったら許せない。

◇Me Tooも慰安婦もセクハラも何もかも、このことを考えると、私は抗議する気がなえる。この最大の差別に目をつぶりながら、自分たちの受けた差別を抗議する人間の、何を信用できるだろうとまで思う。

それには、まず当事者の男性が声を上げなければ、と思ったり言ったりするのは、いうところのブーメランというやつで、私自身にはねかえる。私は昔から、女性差別の数々に一番傷つき恐ろしかったのは、差別している、あるいは直接差別しなくても、その恩恵を受けている男性たちが、何も言わないし感じていないように見えることだった。それが男性すべてに対する不信をつのらせ憎悪を生んだ。

◇生まれて初めて、その気持ちを口にしたのは、若い男性と、若い女性の前だった。それほど親しかったわけでもないし、特に女性とはほとんど初対面だった。たまたま三人で夜を徹して哲学論みたいなことをしゃべっていたとき、私は「女性が差別されている状況を、男性が誰も気づかず怒らず抗議もしないことで、私はすべての男性を憎んでいる。でもそれは、絶望したくないからだ。絶望したくなかったら、憎むしかなかった」と、本当に初めて口にした。

そのことに自分でも驚いたが、更に驚いたのは、上品で優雅で芸術的なその女性が、ぽつっと一言「私は憎みたくなかったから絶望した」と、静かにつぶやいたことだった。
彼女とは、その時以来会う機会がなかったから、今はどうしているかも知らない。

◇おそらく、男性であるというだけで、人殺しを強制される、この差別に、女性が誰も声をあげず口を閉ざしていることで、女性を憎むか絶望するかの二者択一をせまられている男性たちが、この瞬間にも存在することを私は確信する。

◇本当に、初心に戻って考えてほしい。人を殺すことを、それもかっとなって憎むのではなく、仕事として冷静に見知らぬ相手を殺害しなければならない時が、いつ自分に訪れるかもしれない毎日の恐ろしさを。
「誰の子どもも殺させない」という、あのことばは、最高によくできていると私は思う。そのことばが、どれだけの力を持つか、心もとないながらも、今では、それしか期待できるものがない。

心もとないから、さしあたり、せめて、その能力があるかどうかは別として、私は常に心のすみで、人を殺す覚悟をしている。あくまでも能力は別としても、いつでも殺せるという自信がある。見知らぬ人間でも、弱者でも愛する人でも子どもでも老人でも。
それはもちろん、狂気だし病気だ。
しかし、そのような狂気や病気を受け入れることを、国家や社会や世間から、普通に自然にあたりまえに要求され認められている性(男性)が存在する以上、それをくいとめる力が私にない以上、その性がひそかに持たなければならない覚悟を、私も持っていなければならないと思っている。
それがなければ、私はお茶くみも、レイプも、セクハラも、女人禁制も、拒絶できない。抗議できない。

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カツジ猫