何かとかんちがいな一日
いつもそうだが、昨日も波乱万丈だった。朝時計を見たら10時半で、ああ寝過ごしたとがっくりしながら二度寝して目が覚めたらまだ8時過ぎで、長針と短針を見違えていたことが判明。
それで立ち直って、一気にいろいろ仕事を片づけ、田舎のお寺に電話して、母の三回忌が去年だったのを忘れていたので、どうしようかと相談し、来年の祖父の50回忌といっしょにするか、今年にするか相談した。そうしたら、その後、ご住職からまた電話があり、「調べてみたら去年お見えになって三回忌をしていますよ」とのこと。えっと思って手帳や日記を確認したら、本当にちゃんとお寺に行って三回忌をすませていた。我ながら唖然。母があの世で、転げ回って大笑いしているのが見えるようだ。
まあ、母が亡くなって三年、一周忌もあったし何もかもがごっちゃになってるのもしかたがないが、私にもしも私のようなやかましい娘がいたら、きっと認知症の兆しと診断されたにちがいない。
首相が国会で飛ばしたヤジは、立憲民主党の議員に向かって「共産党!」と言ったのだそうで、つっこみどころが多いどころか、この人こそそろそろ精神が崩壊してきているんじゃないか。こんな相手にまともな議論をしかけている野党議員にも本当にただ頭が下がる。
何とか応援したいから、12月1日の近くである集会も成功させたいのだが、来週末の講演の準備がまだまだ不十分だし、正直私は半狂乱だ。
愚痴をいうわけではないが、こんなに仕事が遅れたのは、教育大関係のチラシを作ったりしていたからで、しかも情勢が進みすぎるから、結局そのチラシは一枚も使う機会がなかったという、シジフォスの神話もどきの脱力感もある。
自分の本来の仕事、求められていること、果たすべき役割は何だろうと、あらためて考えている。本職の研究を犠牲にして、どこまで社会的活動をするのか、自分できちんと考えておかなくては結局、すべてがうまく行かなくなるだろう。
言ってしまったらおしまいのようなことを言うが、カルチャーセンターでもビラ作りでも何でもそうだが「わかりやすい、かんたんなもの」を作るのは、詳しいていねいなものを作るよりは、ちがった意味でだが、ものすごく消耗する。そもそもコピーライターでも何でもなく、むしろ本職は反対のことをしている自分だから、苦痛と言ってもいいほど疲れる。
どんな内容にするか、イメージにするか、まだ一文字も書かない内から一日二日かけて悩んでしまうこともある。これはと思うものが書けても、改行からテニヲハから、何度もチェックして書き直す。本当はそれをきちんと皆にプレゼンし、意図を売り込み、作成から配布まですべてを見届けなくてはならないのだが、その時間はないから、あとはおまかせと他人に託するしかなくなる。
そうすると、大抵の人は、見た目が苦労して作ったようには見えないから(見えたら失敗なのが痛い)、楽しく一気の鼻歌交じりでちょいちょいと作ったように感じるから(そう思ってもらわなくては困るのが困る)、またいくらでも作れるだろうと思われてしまい、結局使ってもらえないままになる。
まあこっちの責任なので文句を言える筋はないが、第一次大戦前夜に最前線に反戦ビラ(この原文を書こうとする苦労が、十ページほども費やして書かれている)をまこうとして飛行機が墜落し、死んで行ったジャック・チボーのような気分をたっぷり味わう。
昔、カルチャーセンターのときでも、世話してくれていた方から、「先生、もう、かんたんなお話でいいんです」と言われるたびに、「それが一番難しいし、時間もかかるし疲れるんだけどなー」と思っていた。文章でも講演でも、ちゃらちゃらのんきな軽いものほど、精神統一と集中と吐き気がするほどの懊悩がなければ生み出せない。
そんなことを人に言ってもしかたがないし、「あなたなら、こんなのはすぐに書けるだろう」と思われているのは、ありがたいことでもあるから、こちらの方で仕事を制限するしかない。実は今日も一日、「簡単な」チラシを一枚作るのに、基本の姿勢と文体が決まらず、うだうだ悩んで何もできなかった。明日中に何とかするしかないし、私のことだからきっとするとは思うが、もうこの仕事が終わったら、しばらくは、教育大の連載以外は、あらゆることはいったんひかえて、自分の本来の仕事に集中しようと思う。多分、それでももう、遅すぎる。
やりきれないのは、教育大学でも他の大学でも、日本全体でも、各分野の私などよりよほど優秀な研究者や学者が、同様に自分の本来の研究をなげうって、政治や社会に関わる活動に時間をさいているだろうことだ。そうしなければ、研究や未来を守れないと思うからだが、明らかにこれは二律背反とか利益相反とか、そういったたぐいの喜劇もしくは悲劇である。泣いている赤ん坊を放り出して、保育所建設の運動をしなければならないような、耐えられない苦痛が、いたるところにある。
写真は、私が見間違った時計。ベッドから寝ていて見える壁につけてあります。