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動体視力

プロ野球のクライマックスシリーズについて。

ホークスと日ハムが対戦するんだから、どうせ殴り合いみたいな試合になるだろという予想だけはついていたが、案に違わず連日とんでもない大乱戦というか、チームのタイプはまったくちがうのに、何で両者でフラメンコダンスを踊るようなとんでもないぴったりのカップルになれるんだろう。深夜や早朝のニュースでかなり詳しく経過を流してくれても、薄味の上澄みスープを飲んでるみたいで、現実の実況の、ものすごい緊張と迫力にはとても及ばない。ということは中継のない他のチームの試合も実際にはこのくらいみっちりドラマがつまってるのか、それともこの二チームが特別なんだろうか。ファンサイトでラストシーンの写真をアップしているファンが、「涙で目がかすんで、これだけ撮るのがやっとでした」とか書いてるのも、あながち大げさとは思えない(笑)。

二試合ともホークスの先発ピッチャーが崩れて先制されたのは、多分セ・リーグの方で阪神が連敗してるのも同じで、シーズン優勝後けっこう長い休みがあって、眠っていたのを叩き起こされて、さあ動けと言われてるようなもので、勘も意識もいまいちなのにもってきて、相手はそれまでの数日ファーストステージで燃えに燃えて、やる気になって、チームも個人も手足や指先のすみずみまで、血がたぎっている最高潮の状態なのだから、まあ、疲れもあるにしても、そんなのは問題にならないほど勢いづいているのを突進して来るのを迎え撃たなくてはならないのだから、しばらくは夢見心地なんだろうから無理がないんだろうと思って見ていた。

昨日もホークスは初回に先制されたあと、追いついて同点にしたもののそれ以後は同点のまま九回裏を迎え、誰もがもう知ってるだろうが、庄子選手が塁に出て、正木選手が送り、周東選手がヒットで繋いで、近藤選手が敬遠されて満塁になったところで栗原選手が自分でも初めてという満塁サヨナラホームラン(サヨナラホームランも打ったことがないそうな)で、映画か漫画かというような勝利を収めた。あと一勝で勝ち抜けだが、この分ではまだまだ何が起こるかわかったものではない。

泣きながらシャッターを押す客席のファンもさることながら、私が脱帽したのはこのホームランの後、ホームで栗原選手を迎えるホークスの選手たちの大喜びのわちゃわちゃ画面を(テレビ中継では周東選手の打席で時間切れになって後は映らず、ファンはもちろん中継アナもくやしそうだった)、ほんの数秒なのにネットのファンたちが、「谷川原がどさくさまぎれに栗原に膝蹴りしてる(以前にされたことがあって、そのお返しらしい)」「その谷川原の頭を山本祐大がうれしがってめちゃくちゃたたいてる」「栗原が帰塁する直前、ホームベースを手できれいにして待ち受ける川瀬が最高」「栗原が帰塁直前投げ捨てたヘルメットを、すぐに拾いに行ってるのが仲よしの周東選手」「それを周東から受け取るのが海野選手」「首を痛めてる柳田が輪の中に入る危険をさけて、バットで人混みの外から栗原をつついてる」とか、私にはああ皆うれしそうだなあと思った以外、何一つわからなかったことを、目ざとくとりあげてコメントしてるのが恐ろしいの何のって。だって、この動画ですよ。皆さんスローか一時停止にしてチェックでもしたんだろうか。これ見ただけで、そこまで情報つかんだのなら、動体視力も選手なみだろ(笑)。

あと印象的だったのは、先日対談したばかりのホークスの中村晃選手が、もう解説者として登場してたことで、何だか上等そうな背広がよく似合ってカッコよいだけじゃなく、落ち着いた的確な解説で、声も滑舌も聞きやすいのに、人柄や能力がしのばれた。ホークスのもと監督の秋山幸二氏が滑舌がいまいちで何を言ってるのかわからないということを愛情込めてネタにされるが、中村氏ははじめから、聞きやすく、内容も過不足なく、周東選手のファインプレイを「あんなのは普通だからほめたら彼に失礼です」と言ってのけるとか、聞いていて感心した。

同じ元監督の工藤氏は、今度中日の監督になるそうだ。うまく歯車があって成果が上がればいいと思うが、彼はホークス時代でも選手の悪口を決して言わず、選手に身体をかがめて同じ目線で声をかけるなど、彼らの人権を尊重する指導方針を当然のように守っていて、昔ながらのスパルタ教育とは縁遠い人だった。それがもしまた成功して、そういう近代的な人間関係が厳しい練習と両立するチームがひとつ増えたら、とてもうれしい。

それがどれだけ工藤監督の力か、柳田選手の人柄などのせいか、そのへんはわからないけれど。CSの直前、柳田選手は近藤選手のYouTubeの対談(ファンだけじゃなく他球団の選手たちからもよく見られているらしい)に登場し、大活躍だった若い正木選手にふれて、「自分のとなりだけど、ロッカーがばり汚い。十六年やってるけど、あれほどのは見たことがない」と例によって爆弾発言をして話題になった。正木選手のロッカーについては牧原選手も前から注意いたけど効き目がなかったって話もあるが、一番おかしかったのは正木選手が即座にロッカーをきれいに整理整頓して、これがまた話題になりまくったことだ。「あんなにきれいな顔をしていて、そんなにロッカーが汚いのか」とかのコメントがとびかう中、「自分は営業でよく大学に出入りするが、研究をちゃんとやってる教授の研究室はだいたい汚いことが多い。(人にもよるが、仕事をしてる人ほど汚い)」とかあったのには、思わずぎゃっと腰を浮かせてしまったが。

正木選手は打てる一番打者として定着し、これまで一番打者が定位置っぽかった周東選手を二番に押しやっている。だが、山本祐大捕手に親切な海野捕手同様、周東選手は正木選手に優しくて、ファンがアップした写真では、正木選手のユニフォームをきちんと直してやったりしており、多分自分が満足の行くように整えたあとで、背中にさわって後ろから見直して満足している様子が、母親とはまたちがうけど、みがいたお皿や完成した器の出来栄えを見て納得している風でほほえましい。栗原選手のヘルメットをすぐ拾ったり、近藤選手との食事の場ではきびきび皿やコップを片づけたりするのでもわかるように、彼は昔からきれい好きの片づけ好きで有名である。

この話がどうつながるかと言うと、私はもちろんそういうきれい好きの周東選手も、柳田選手に暴露されて、ただちにロッカーをきれいにした正木選手もそれぞれにかわいくて好きだが、それ以上に感心したのは、この話をした時の柳田選手の姿勢というか発想だ。
 そこだけ切り取られるとわからないが、柳田選手はこれを正木選手への批判や忠告として言ったのでは全然ない。

彼は、正木選手の打撃の成長やすごさを誉めたあと、ロッカーの汚さを徹底的にバラしている(15:00あたり)。そして、その後でこう言っている。「整理整頓できんやつはダメだ、みたいなの、あるじゃないですか」。そして一拍おいて声をひそめて断言するのだ。「関係ねえっす」。

私は笑いつつ感動し感心した。柳田選手はとなりの後輩の汚いロッカーを見て、心配したりなんかしていない。そうではなくて、彼に生まれたのは「こんなに散らかして整理整頓していなくても、あれほど打撃が上達し、立派な選手になれるんだ。十六年間、選手として生きてきたけど、新しいことを学んだなあ自分」という、驚きと修正なのだ。

すごいじゃないか。あのベテランが。あのレジェンドが。目に見たもので、これまでの自分の固定観念をがらっと自然に変えてしまう、若々しさとやわらかさ。人としても教育者としても、なかなか出来ることではない。そりゃ四十近くなって、自分の打撃を変化させることもできるだろうよ。後輩やチームにも、そういう新鮮さや大胆さや風通しのよさは広がっていくだろうよ。

また勝手な妄想をしてちがったらおわびするが、私は正木選手の人となりは牧原、栗原、周東、今宮、近藤といった選手たちほどにはよく知らない。でも、もしも柳田選手が「ロッカー汚くても、関係ないっすよ」と感心したように断言しなかったら、逆に「あれじゃだめですよ」「今は良くても先が心配ですよ」とかいう言い方をしたのだったら…正木選手は決してロッカーを片づけたりはしなかったのじゃないかと、そんな気がしてしょうがない(笑)。

最後に栗原選手があれだけのことをしながらヒーローインタビューでもその他でも、あいもかわらず、どこかふわふわ自信なげで、前の近藤選手が敬遠されて自分はなめられててくやしかったから燃えた!とアナウンサーたちが全力で言わせようとしているのに、そんなことはまったく言わず(もしかしたら気づかず?)「緊張しました」「まだ何があったかよくわからない」「うれしいっすね」みたいな、ぽーっとしまらないことばかり言って、いつものちょっと「いやあ…」と情けなさそうな顔で笑っているのが、見ていて、本当に最高で楽しくてしかたがなかった。それでこそ彼ですよ。この先どうなるかは知りませんが、よく冒険映画やSF大作の冒頭に出てくる、幸福で無心で健康な若者そのもので、映画や小説では、そのあとめちゃくちゃな不幸や災難に襲われて、成長し悪の権化や正義の英雄になるんですが、どうなんだろう。まあ彼も大けがその他でけっこうな苦労はしているはずなので、不幸も苦難も、あの性格は変えられないのかもしれないですけどね。

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カツジ猫