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台風北上中

台風は福岡県を北上中とのことだが、今ここでは雨も風もやんでいる。いろんな警報も次々解除されていて、どうやら山は越えたのかな。停電もなくて、電池を入れ替えた懐中電灯も出番なしですんだようだ。

さっき庭を見回ったが、桃の木やゴールデンクレストなどの大きな鉢がひっくりかえってたのはさすがの大型台風だが、鉢は起こせばそれだけで、ケイトウやバラの倒れたのは支柱で支えてすぐに回復。まあこの程度ですんでよかった。ぽっきり折れた彼岸花が数本あって、これは玄関の花びんにさした。彼岸花は縁起が悪いとかで飾らない人もいるようだが、私はこだわらない。

 

ぬれた樹木や花の中を歩き回って支柱を立てたりしていると、自然に思い浮かぶのは、子どものころ読んだ「ウィルヘルム・テル」の本の、嵐が通り過ぎた翌朝、大地主のウェルナーが果樹園とかを見回って、落ちた果物を集めている使用人たちに、「いたみがひどいのは牛や羊に食わせてやんな」と声をかけている場面だ。あのころの本はどれも、すみからすみまで何度も読んで、よく覚えている。その嵐の翌朝の場面も、きらきら輝く日光や色鮮やかな果物が目に浮かび、とてもきれいで楽しかった。大好きで、その場にいるような気分をいつも味わっていた。今朝も、庭の中を歩き回っていると、そのまんま物語の中にいるような気がした。

「ウィルヘルム・テル」の主人公のテルは魅力的だが孤高で無口で、悪代官を倒す革命にも協力はするが距離をおく。だから大地主でありながら、革命に参加し、やがて中心になるウェルナーが、その決意と逡巡を長く語る役目をになう。戦争の残酷さ、平穏な生活を失う危険を恐れる彼を、果樹園のベンチで「それでも戦うべき」と説得するのは、彼の妻だった。あの会話も今思い出してもまったく古びてはいない。

とまあ、私はのんきなことを書いているが、まだまだ油断ができない地域の人もいるだろうし、大きな被害が出ないことを祈るばかりだ。

でも、少し早すぎるかもしれないが、まだ頭に来ているうちに書いておいた方がよさそうだから書いておく。いや、だからどうしたらいいのかは、よくわからないのだが、ここ数日の、この大型台風についてのラジオの警報は変にセンセーショナルでいやらしかった。「何十年に一度」「予想もつかない被害」などの大げさなことばを連呼し、ゴジラでも来るのかといわんばかりのノリだった。たしかに大きな被害は出るかもしれないけれど、何だかとても言い方が無責任で下品で気持ちが悪かった。人をびびらせればいいかと思っているのがみえみえで、とにかくいやらしかった。具体的に避難とかをさせたいのなら、もっと冷静な情報の伝え方があるだろう。

地域によってちがうのだろうし、ここが被害がなかったのはありがたい限りだが、「今まで見たこともない風の強さ」「何十年もなかった被害」とか言うのはどういう根拠で、どういう基準で、どこまで本気なんだろう。このくらいの雨風はここ十年間でも私の回りで何度もあったし、この間の災害の各地のさまざまな被害は「何十年もなかった」としれっとすませられる程度のものじゃなかったろ、どう考えても。失礼だよ、被災地の人たちにも。

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カツジ猫