君たちの命日
実は八月の初めに、何十年間というもの、一度も忘れたことのなかった、初代猫おゆきさんの命日を初めて忘れて、数日が過ぎてしまって気がついた。暑さのせいか老化のせいか、とにかく私は相当あわててパニクって、急いで枕元のテーブルに写真をおいてお供えをして、いわば特別祭壇をこさえ、八月いっぱいそのままにして毎日ながめて供養に代えた。したらば、これは何度か忘れてあわてたことがあるけど、九月はじめの愛犬バロンの命日をこれまたうっかりしていて、昨日気づいた。ぼんやり意識してはいたのだが、忘れた。
時はほんとに、あっという間に指の間をすりぬけて、過去へと飛んで行く。
愛猫キャラメルがひな祭りの直前に、母がクリスマス当日に死んだのも、こんな私をよく知る二人?が忘れないように配慮してくれたのかもしれない(笑)。
時間つぶしの気晴らし用の、気軽に読める文庫本を常備している数冊の一冊、『あの日に亡くなるあなたへ』を、ちょうど読んでしまったのは、これもバロンのメッセージかしらん。とりあえず、明日はお花とドッグフードでも買って来て、また九月いっぱい飾っておくかな。
「あの日に亡くなるあなたへ」は、作者が現職のお医者さんとのことで、描写や展開がしっかりしていて、安心して読めた。その手堅さの上に、これまた突飛で壮大なタイムトラベルというか過去の変更をSF冒険小説の趣きでしかけているのも新鮮で、なかなか興奮させられる。
もっとも、この設定自体は、かなり昔のハリウッド映画「オーロラの彼方へ」と同じで、家族構成や父と母が入れ替わったりしているけど、基幹となる感情と雰囲気は、ほぼ同じでもある。
ただ、もはや映画館で見たのかビデオで見たのかさえ忘れたが、私は「オーロラの彼方へ」のささやかさとていねいさが、かなり好きで、設定を少し変えた、こういう小説を読めたのはむしろうれしかった。
あの映画の主演の青年を演じていたのはジム・カヴィーゼル。その後メル・ギブソンが監督制作した、イエス・キリストの最後の十二時間を克明に描いて、さまざまの物議をかもしもした映画「パッション」で、キリストを演じた人。演技も雰囲気もよくはまっていて気に入ったけど、何しろ壮絶に気の毒すぎる役回りで、見てるこっちもそれなりに心にダメージはくらった(不愉快なものじゃなかったが)もんだから、多分その前に作られた「オーロラの彼方へ」でつつましい好青年のささやかな幸せを演じているのを見たときは、こっちも何だか、イエスが復活したみたいに、ほっとした。その点からも好きな映画だった。
思い出したついでに、つい衝動的にDVDを注文しちゃったじゃないかよ(笑)。
「パッション」については、私のながーい感想とかもありますので、よろしかったら、お読み下さい。二十年も前に書いたけど、おおむね今も私は、同じ気分で生きてます。
写真は上から、おゆきさん、バロン、キャラメル。こうして並べると、それぞれ個性ありすぎで、ひとくせふたくせありそうすぎて、何となく笑う。