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妄想。

◇天気予報が言ってたとおり、今日はぽかぽか暖かかった。
先日のホームパーティーに着て行った、叔母の遺しためっちゃ派手派手のジャケットを着て仕事に行った。黒地に色とりどりの花模様で、金糸の縫い取りがしてあって、ラメみたいにキラキラ光る。写真を見た人からステージ衣装みたいだと言われた代物だ。
どことなく古びて見えたので、叔母はこれを着てどこに行ってたんだろうと思っていたが、よく見ると特に着古した様子もなく、それでも何となくそう見えるのは、ひょっとしたら、どっか重厚なせいだろうか。そりゃまあ、これだけケバくて安っぽくみえないというのは、きっとそれなりに品はいいんだろう。あー、またクリーニング代が高くつく。
でも、厚手でコート代わりにいいなと思って着て行ったら、果たして暖かく、しばらく、この季節に重宝しそうだ。特にうれしいのは、ふたつきのポケットが両脇にあって、しかもそれが、ものすごく深い。ちゃらちゃらしているように見えて軍服なみに実用的じゃないか。気に入った。裏をひっくり返してみたら、某オートクチュールの名と叔母の名前が入っていたから、このデザインは叔母の好みだったのかな。
ただ、このポケット、実に井戸みたいに深いので、グランドパスの定期券や家の鍵が、入れたはずなのにない!と何度もドキッとした。ずっと底の方に入ってて、落とす心配が絶対ないのはありがたいが、慣れるまではいろいろと毎回心臓によくない。

◇今朝、上の家の猫たちのトイレを掃除したり、かんづめを開けてやったりして、しばらくいた後で、下の家に戻ろうと玄関を出ると、下の家の猫出入り口からカツジ猫が飛び出して、しっぽをはためかせて弾丸みたいに金網の庭をこちらに走って来た。その様子がどう見ても、「お出かけしてると思ってたら、そこにおったんかい!」という剣幕に見えて、二つの家の間に立ったまま、しばらく笑ってしまった。

昨日の朝、ゴミ出しをしたついでに、庭の草の目立つのをむしっていて、ひょっと、世にもしょうのない妄想にふけった。魔女か宇宙人か神様か何かから私がふしぎな力をさずかって、きっかり十年後のこの家を訪れて見ることができたとする。その時に私は何を見るのだろうなと、思い始めたら、やめられなくなった。

(1)天変地異か都市計画か何かによって、このへんは全部更地になっていて、私の家はあとかたもない。私自身と猫たちも、どこに行ったかわからない。わー、恐いよー。

(2)家はちゃんと今のままあって、とてもきれいに花などが咲いている。置いてある車も新しい。一安心して近づくと、「ママー」とか元気な声がして、見知らぬ小さな子どもがかけ出して来て、その後からきれいな若い母親がにこにこしながら出て来る。あら、これも恐い。それでカツジ猫はいるのかな。いても恐いが、彼の姿が無くてチワワかコーギーが鳴いててもいやだな。

(3)家もほぼ今のままだし、私の服や下着が洗濯されて干してある。じゃ私は元気で暮らしているのかと思うと、金網の庭の中の梅の木が、私の胸ぐらいの高さまで大きく育ってて、花も満開で、よく見たらその根元に、猫のお墓らしい石がおいてあって、カツジの食器が供えてある。ううむ。他の二匹、灰色猫のグレイスと白黒猫のマキは今十五歳なので、十年後にはもう生きてはいないだろうが、今五歳のカツジは微妙なんだよなあ。

(4)そして、年をとった私がまあまあ元気に玄関から出て来て、見たら片手に別の猫を抱いている…いや、これはマジでいやだぞ。いろんな意味で。

(5)やっぱり、できたら、家もちょっと古びてはいるがこのままで、私もずんと老けてるがまあまあ動きに不自由はなさそうで、そして、毛の色が白っぽくなるかして、どことなくツヤもなくなったカツジが、ますますふきげんそうな顔で金網の中から外を見てるっていうのがいいな。できたら車が真っ赤なスポーツカーとかになってたら、もっといいけど、ぜいたくは言わない。

最後のが最高だが、でも(1)から(4)でも、何となくドキドキして、それはそれで面白そうな。

◇さっきから、カツジ猫が足元に来て、見上げてはにゃあにゃあ鳴く。前はこんなことなかったのに、このごろ毎晩こうだから、早く寝ようとさそっているのか、私が好きになって人恋しいのかと、甘いことを考えていたが、やっとわかったぞ。こいつはこのごろ、パソコン前の私のこの椅子に寝てることがよくあって、ここがお気に入りの場所になりつつあるのだな。それで私が座っているのが気に入らなかったのだと見える。
枕に続いて、この椅子も乗っ取ろうってかい。何てやつ。先が思いやられるよ。

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カツジ猫