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居酒屋にはできない。

◇勤めていたころの職場でも、今いろいろと地域での活動に参加していても、しばしば感じたのは、おおむね正しい考えを持っている人たちの間で対立や分裂が起こるのは、案外けっこうささいな感情的対立や好き嫌いが原因であるということだった。

もちろん、絶対に譲れない主義主張や原則が原因になることもあるが、それだと交渉もかけひきも可能でまだまだ何とかできる。「あの言い方が許せない、あのやり口が以下同文、あの人柄が以下同文」という場合が、一番修復困難だった。ほとんど不可能に近かった。

で、いつも私がじれったく不思議がってたのは、そういうことになる気持ちは充分にわかるけど、何でもうそれを仕事だの運動だのに持ち込むかねえということだった。そういうのは、帰り道に立ち寄った居酒屋で気の合ったどうしで心ゆくまで悪口を言うとか、家に帰って家族にこぼしまくるとか、日記に思う存分書くとか、まあそういうことで発散して、会議や共同作業の場では、しれっと伏せてにこやかにして、仕事や運動を円滑に進めて効率を上げることだけを基準にするということが、なぜできないかと、いつも思った。

私自身だって、こいつ絶対に許せんとか、もう永遠に見限ったとか、そういうことはいくらもあるし、その反対にこの人はとことん信用できるとか、命を捨ててもいいぐらい感謝するとか思うこともないわけではないが、そういうのはよくよく親しい友人にぶちまけるとか、日記に書き散らすとかで、それ以上は拡散させない。

授業、講演、著作、ひょっとしたらこのブログでも、私はものすごく個人的なことをべらべらしゃべっている印象を持たれやすいが、それは、そういう風に話した方が、私の言いたいことや教えたいことや伝えたいことがきちんと伝わると判断しているからでありまして、そういう役にたつこと以外の個人的な話は、私は微粒子なみのひとっかけらも、人前では話してはいない。そこに気がついてもらえることはなかなかと言うより、まずなくて、まあ、あっちゃ困るから、それでいいのだが。

◇だから私は親しい人々は、職場や諸活動以外の場に確保する。でないと職場や会議の場所をイコール家族的な交流の場所にしてしまって、そういう感情の垂れ流しやゴミ捨て場と一体化しそうになるから危険だ。玄関にトイレ用品を置くとか、キッチンに訪問着をかけておくとか、そういうことと同じになりそうである。
もちろん職場も会議場も、居酒屋か家庭のようになごやかになるのも、ある程度はいいものだが、それはあくまで擬似的なシステムとしてのものであって、ショーウィンドウに作られた海みたいな仮想世界であることを各自が自覚しておくべきだろう。

ちなみに、ご近所づきあいもそういう点では私にとっては職場と同じで、まあひょっとしたら家族の間でもそうである場合もあるかもしれないが。

◇難しいのは、このブログは私にとって家族か居酒屋か日記帳かということで、基本的には明らかにそうではないのだが、その要素もいくらかはある。
とは言え、今回、世界と日本で起こっている事態については、ここを居酒屋にするのはいくら何でもちとまずい気がする。
まさかイスラム国の人が、ここを見ているということはどう考えてもあり得ないが、それでも、その気分でいることが今は必要だろうと思う。

私はテレビをさっぱり見ないので、昨日の夕方、首相が会見しているのをちらと見て、何で今ごろニュースがあるんだと思っただけで、すぐ放ってしまい、首相がイスラエルに行ってテロ対策の支援を約束し、それに対してイスラム国が日本人人質二人の命と引き換えに二億ドルの身代金を要求して、動画を送って来ていることを、ずっと知らないままだった。

◇ネットを見れば、頭が痛くなりそうなあらゆる要素を持った情報があふれている。それはそれで大いにありがたいのだが、国際的にも国内でも、この状況がどう流れて何を生むのかということについては、私は何も予測がつかず、ただものすごく不安である。
人質の方の命についてはもちろん、ひたすら心配だが、それも含めて、政府、マスメディア、国民が、今後どのような判断をして、その先どのように動いて行くのかが、まったく見当がつかない。
橋本治の「バカになったか日本人」という本を買おうと思っていた矢先だったのだが、私も含めて人々は、この状況に正しく反応できるほど、バカになっていないかどうか、わからない。
人類と、国民を、信じたいと思っている。今はそれしか、することがない。

不安であると同時に私は、この件に関しては、いろんな点でいろんなことに、ものすごく腹を立てている。
しかし、イスラム国の人が見ているかもしれないから、これ以上は何も言わない。
ひとつだけ言っておくと、自国の首相が海外で何をしゃべっているかについて、知らなかったわけではないけれど何となく放置していた自分自身に対して、私は腹を立てている。いくら何でももうちょっと…いや言うまい。

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カツジ猫