映画「ウエストサイドストーリー」感想(続き)。
◇「ウエストサイドストーリー」、DVDで見直してると、大学時代の友人と何度も見た思い出がよみがえり、くだらないことばかり思い出してしまう。
私と彼女は、見るたびに、主役の二人トニーとマリアがアホすぎて、あの悲劇が起こったのじゃわいと口をきわめて罵倒していたものだったが、だいたい、こういう正義の味方や平和を守ろうとする側って、どう転んでもカッコよくなりにくいので、今見ると二人ともなかなかがんばってるなとは思う。でも、普通の観客がベルナルドに入れあげるのはまあどう考えてもしかたがないよね。私たちもそうでしたから。
ベルナルドだけでなく、リフも人気はあったと思うが、私と友人は双方の副官格の二人も好きだった。リフの副官アイスは、「クラプキ巡査」で皆が大騒ぎしてるとき、一人そばで大人の微笑を浮かべて女性たちと傍観してて、もしや踊れないの?と思わせておいて、後半の「クール」でめいっぱい最高に決めてくれるのがカッコいい。彼は最後にマリアからまっすぐ銃をつきつけられて(マリアとしては誰でもよかったわけだが、それってなおヤバいかも)微動だにせず見返していたのも、らしくてよかった。
アニタがリンチされそうになるとき、彼はちょうどいないんだよね。いたら絶対、ああいうことにはならなかったはずなんですが。
二つのグループがドクの店で会談して、けんかの場所や何かを決める時、この副官の二人がそれぞれ、リーダーのわきに座ってて、最終決定前にリーダーがちらと流し目だけの無言で意見を聞くと、もう初めて見る人には絶対にわからないほどかすかに「それでいい」「だめっす」みたいに首を左右に動かしたり、目を伏せるのと区別がつかないぐらいにうなずくのもなかなかでした(笑)。
アイスほど派手じゃないけど、ベルナルドの副官もいい味出してて、恋人も彼も、ちょっと顔がウマっぽくて、そのちょっと口が大きい恋人に、「アメリカ」のダンスの前の屋上のシーンで「口もあんぐりと開けて」と言うのなんかも笑えました。
◇前の書き込みで差別の問題が日本社会で、リアルに感じられるようになったってことにふれたけど、世界でますます大きくなっている移民の問題についてもそうですよね。「アメリカ」の歌詞なんて、最初聞いたときも「こんなこと歌っちゃうんだ!」と驚きましたが、今の格差が広がった社会では、なおのことリアルで、古びないどころか最先端の内容かもしれない。
その一方で、まあ進歩もあるのかもしれないと思うのは、マリアが勤務先の婦人服店で歌う、あの歌、あそこで彼女は「私こそ本当のミス・アメリカ」と歌ってますが、私の記憶違いでなければ、あの映画の公開当時、ミス・ユニバースや何かの優勝者に、白人以外の人がなることって、まずなかったのじゃなかったっけ。
その後、プエルト・リコの代表がしょっちゅう優勝するようになって、私はそのたびに、「あの歌の意味がわかりにくくなるな」と、いらん心配をします。
◇ネットで検索すると、もう圧倒的にベルナルド役のチャキリスについての記事が多くて、77歳の今も変わらずカッコいいと言われてますが、彼がゲイだと明確に書かれているのにも驚きました。何だか人物年鑑みたいなのにもちゃんと書かれているらしいから、いいかげんな情報じゃなさそう。
いや全然かまわないんですけど、かの大作家のサマセット・モームのことを前にも書いたように私は好きで、その中には、「まったく異端や少数派の感じがなくてどこからどう見ても安定保守っぽい作家が、こんなに好きなんだから私の好みは幅広いんだぞ」という、種類のちがう国債を買ってるような安心感がどこかにあったのです。そのモームが同性愛者だったと聞いて、「わわ、これじゃ結局私の好みって、相当に首尾一貫してると言われてもしかたないやん、どうするよ」とか思ったのですが、それと似た感じかな。
ううん、こうなったら、あと頼りになるのはラッセル・クロウぐらいのものか。しかし彼も人気が出始めたころは、ゲイかも知れないと言われてたな、そう言えば(笑)。
だって、ベルナルドは、あれだけ兄貴風吹かせ、恋人には上から目線で、家長としての責任感満々で、「こんな男性的精神に満ちあふれてる人を見て、そんなに腹も立たないで笑って許せるというのは、私の感覚も柔軟なとこがあるじゃないか」と、何となく思っていたからなあ。モームの場合もそうだけど、やっぱり私が好むもののどこかには実は決して保守的じゃない、差別用語か知れないけど、健全じゃない普通じゃない何かが存在しているのかとあらためて思い知らされた。いいけどね(笑)。
◇で、またしても、まるで関係ないことを思い出すんですが、友人と私がよく「謎だなあ」と言いあってたのは「ベルナルドとアニタは映画館でいったい何をしてたんだ?」ということです。
最初の方で、ダンスパーティーに着て行くドレスの胸をもう1インチ開けて、とアニタにおねだりしているマリアが聞いてもらえないのでアニタを脅迫して「兄さんと映画館で何してたか、パパとママに言いつけちゃってもいい?」と言い、アニタは「ドレスを破くわよ」と怒るんですが、あれだけべたべた抱き合ってキスして、香水つけて風呂に入ってベッドで待つような仲の二人が、今さら告げ口されて困るような、映画館でできる程度のことっていったい何なんですかねえ?何十年か考えてるけど、いまだにわからんわ(笑)。
◇それから男装の少女エニボディですが、要所要所でトリックスター的に登場して、話を転がす、けっこう大事な役なんですね。これはひょっとして、「フィガロの結婚」のシュリバンもどきの軽やかな妖精っぽい役回りにもなるのかしらん。
だとしたら、あの女優さんはやっぱりミスキャストだなあ。かわいい外見なのに、何かこうすべてが、もたもたとしてて陰気なんだよな。そう感じるのは私だけなんだろうか。