山椒魚戦争。
◇昨夜の夜中に思い立って、車に積んだままにしていた、布地を張り替えた椅子を下ろして、上の家の居間に運びこもうとしたら、あら不思議、出すときはちゃんと出たのに、食器棚を作って廊下がものすごく狭くなってる部分で、椅子をパズルみたいにどう縦にしても横にしてもつっかかって入らない。無理に引っ張りこもうとすると棚と棚の間にはさまって後にも先にも動かなくなり、真夜中の家の廊下で、私自身も玄関に出る通路をふさがれてしまい、玄関のドアを閉めにも行けず、うわあどうしようと立ち往生しました。井伏鱒二の小説に出て来る山椒魚になった気分。自分と椅子とどっちがそうかはわからないけど。
しばし考えをめぐらせたあげく、もうこうなったらと、台所のドアから出て、下の家からドライバーを取って来て、廊下にはさまったままの椅子を解体しました(笑)。正確には横の腕木をはずしました。これがまた、宙に浮いてはまってる椅子なので、ねじを回す空間もない。一時はどうなることかと思いましたが、幸い案外簡単に腕木ははずれてくれて、椅子はめでたく居間に収まりました。その間、アクロバットのように私も身体をねじったりくねらせたりしていた上に、叔母の遺した上等の食器がぎっしり入ったままの食器棚を押したり引いたりして移動させたりしたので、気がついたら腰が痛かった。それは、今日はもう治りましたが、一度椅子を自分の足の上に落としたので、足の甲がまだ痛い。まあ骨は折れてないでしょう。
その間ずっと、椅子や廊下や食器棚に、呪いのことばを浴びせまくって、たきぎにしてやるとか言って脅かしてたせいか、赤い椅子が居間に収まった感じは、悪くはないけど、期待していたほどはカッコよくなかった。まあ、雑貨がうず高く積っているテーブルの上がすっきりすれば、それなりの空間にはなるでしょう。居心地としては悪くなさそうです。
あと、古い座布団やクッションが場所とるなあ。何かうまい使い道はないものか。
居間と台所はいずれ片づくと思うし、仏間もだいたいは何とかなっているので、あとは荷物が山積みの二つの書庫を一応見られるようにすれば、何とか生活できそうです。むろん、まだまだ荷物はあるのですが、それは毎日ぼちぼち整理して行けば、夏までには何とかなるでしょう。なってもらわなくちゃ困るわ。
この騒動の間、上の家のグレイス猫とマキ猫は静かでしたが、カツジ猫は何か不穏な気配を感じたと見えて、下の家の庭の金網の中から、ずっとうみゅううみゅうと鳴いていました。度胸がないんだからもう。
◇この作業に疲れて気分がハイになり、寝られないでまた明け方まで起きていました。三日連続の徹夜のせいか、朝、鏡を見たらしわがものすごく増えて、一気に十歳ほど老けて見えました。今日は中野三敏先生の文化勲章受賞の祝賀会があって、スピーチもしなきゃならないのにとあわてながら、飛び出して車を飛ばし、ぎりぎりですべりこみました。
やっぱり乾杯のときのお酒は飲みたいので、つい口をつけてしまい、めでたく会が終わったあと、アルコールが残っていたら大変と、交番に寄って、検査とかできないのかと聞いてみたら、そういうことはしていないそうで、でも、ビール一缶が抜けるのは8時間ぐらいですと、若いお巡りさんが教えてくれました。
ちょっと一口飲んだだけですから、そんなにはかからないだろうと思いつつ、念のために喫茶店に入ってコーヒー飲んで9時すぎまで、友人が貸してくれた「ミレニアム」の新刊を読んでいました。「作家が変わると、やっぱり迫力がない」と友人は言っていたけど、たしかに微妙にキレがないというか、時々だれる気がする。でもまあ面白いので明日には読んでしまえるだろう。リスベットのやけっぱちなパワフルさは、やっぱり読んでて気持ちがいい。
◇さて美容のためにも、今夜こそは早めに寝るぞ。