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悪乗りっす。

北窓書屋さんのブログで、「クオ・ヴァディス」のペトロニウスの話で盛り上がっていたら、とまらなくなり、あちらのコメント欄には入りきらないと思うので、ペトロニウスの最後の手紙をまるごと引用紹介します。

これ、戦後の児童文学全集ですよ。もちろん、文語文はここだけですけど、仮名遣いまで旧仮名なんて、すごすぎる! そして、このかっこよさ、もううっとりです。

皇帝(くわうてい)よ、予は、なんぢが日夜焦慮(せうりよ)して予の参内を待てるを知る。されども行くあたはず。人生はげに大いなる宝庫なり。予はこの宝庫よりさまざまの貴(たふと)き珠玉を選びとりたり。さあれ、また人生には、予の堪へ得ざる幾多の醜汚(しうを)あるをいかんせん。かく言ふは、なんぢがその母妻及び兄弟を殺し、またローマに火を放ち、国内の潔白なる諸士を地獄のやみに送れるを責めんとにあらず。死は人の運命なり。殺人以外(いぐわい)の行為(かうい)をなんぢに求むるは、笑止(せうし)のさたのみ。へぼ詩人よ、ただ予は今後幾年間、なんぢの吟誦のためにわが耳を痛め、なんぢの弾奏と、なんぢのつたなき詩を聞かんことは、予の堪へざるところ、つひに、それ、予をして死なんとの念願(ねんぐわん)を抱(いだ)かしむるに至りぬ。なんぢの詩を聞くとき、ローマはこぞりて耳を蔽(おほ)ひ、全世界はなんぢをののしらん。この後(のち)なんぢ歌ふをやめよ。虐殺するはよけれど、詩は作るべからず。毒害するはよけれど、踊(をど)るべからず。放火(ほうくわ)するはよけれど、立琴をひくべからず。こは、『粋判官(すいはんぐわん)』たる予が、なんぢに対する最後の念願(ねんぐわん)にして、また最後の進言なり。

◇ちなみに翻訳者は大木惇夫。戦争詩人として、戦後は冷遇されたようですが、彼の代表的な詩はこちら。やっぱりいいですね。ネットからコピーしたので、正確じゃないかもしれないけど。

東大闘争のとき、全共闘の学生が、この詩のパロディをこさえて「我は行く駒場の…(忘れた)、君はよく本郷を衝け」とか書いていたのを、どこかで見ました。

言うなかれ、君よ、別れを
世の常を、また生き死にを
海ばらのはるけき果てに
今や、はた何をか言わん
熱き血を捧ぐるものの
大いなる胸を叩けよ
満月を盃にくだきて
暫し、ただ酔いて勢(きほ)へよ
わが征くはバタビヤの街
君はよくバンドンを突け
この夕べ相離(さか)るとも
かがやかし南十字を
いつの夜か、また共に見ん
言うなかれ、君よ、わかれを
見よ、空と水うつところ
黙々と雲は行き雲はゆけるを

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カツジ猫