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成り行きで桜を移植

少し前のことだが、例の奥庭の突き当りの草取りをしていたら、以前に崖の上の住宅を作るのに、業者のかたが測量をして行ったときに打った赤い杭があった。

これは測量の何かの目安にしただけで、何かの境界でも何でもなく、意味はないということだったし、だったら残しておいたら面倒だから抜いてしまえと思った。
どうせそんなものだから、すぐに除去できると思って、さしあたり回りを掘ってみたが、びくともゆらぐ気配がない。

小雨もぱらつく中、意地になって回りを掘り続けてみたが、これがまあ、掘っても掘っても掘っても掘っても、杭は地面に深々と食い込み、まったく動かないままだ。
気がつくと、ものすごく深い穴が、杭の周囲にできていた。

前から、家の横庭の柿を植え替えようと思っていて、それはさすがに私では無理だが、何年も前に実家に帰る途中の道の駅で買ってきて、鉢植えにしていた、小さい桜があった。

買ってきた年に咲いていただけで、それ以後は毎年花は咲かないが生きながらえて伸びていて、それをこの奥庭に移したいという気があった。
気づけばどうやら、その鉢植えの高さというか深さぐらいには、杭の回りの穴は深くなっている。

これはもう、ここに桜を植えろということだわと思ったものの、その中心に杭があるのでは、どうにもならない。
とにかく、あまりに状況に変化がないので、さすがの私もあきらめて、ノコギリで杭を途中から切っておくかと考えたが、家の裏に置きっぱなしていたシャベルやほうきの中に、何を考えて買っていたのかわからない、すごく重い大きな槌があった。金属製のヘッドが人でも殺せそうな迫力である。

持ち上げられもしないのを、引きずるようにして持って来て、何とかようやく持ち上げて杭を横からたたいて見た。最初はねらいをはずして空振りし、槌にくっついて私も飛んで行きそうになった。二度目三度目は何とか杭を直撃できて、初めて杭が少しだけかしいだ。そして、杭の回りに土との間にこれも初めて、細い溝が生じた。

勇気百倍して、さらに数回ぶったたいたら、あっけないほどあっさりと、杭はぐらつき始めて、引っ張ってみたら、ごぼっと抜けた。
その日だったか次の日だったか、今度は桜の木の鉢から桜を掘り出した。案外、根も張ってないと思っていたが、底の方ではかなりしっかり根がわだかまっていて、指先で鉢底を探って泥をほぐしつつ、ようやく桜を取り出した。

そして、くだんの穴に樹木の土と肥料をまぜて、桜を植えた。
ネットで見ると、桜は根を張って大木になるから、庭には植えない方がいいとある。しかしたしか道の駅で買ったときに聞いた話では、この桜は育っても1メートルやそこらの小さい品種ということだった。話半分としても、そうそう大木にはならないだろう。
ここなら一番周囲に何もないし、考えれば考えるほど、ここ以外には場所がない。

しゃにむに植えて土を戻した。小さい鉢の中で、かなり根を張ろうとしていたから、根付いてはくれるだろう。周囲の新しい土に猫が糞をしないよう、枯れ枝でバリケードして、疲れでよろよろしながら、家に戻った。はああああああ。

桜の移動なんて、まだまだ先と思っていたから、自分でもびっくりしている。

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カツジ猫