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敷衍(ふえん)

参政党はとうとう治安維持法を推奨しはじめたらしい。何を考えているのだと言いたいが、もうそろそろ、何も考えてないのではないかと思った方が時間の節約になりそうな。
 支援者が演説会場で暴力的な行動をしたり、反対意見の人に命を脅かす旨のメールを送ったり、口だけではなく危険な集団になりつつあるのも、いやな感じだ。

だいたい不思議でならんのですがね。私はあんまり人気が出ると、逆に食指が動かなくなるもんで、大ブームだった「鬼滅の刃」を実はほとんど見ていない。だが、もれうけたまわる内容や、何かのはずみに見る一部分では、見間違えようもなく、あれは「優れた者は弱者のために生きて、彼らを救わなくてはならない」「たとえ異形の鬼と化したものでも、無条件に排除したり切り捨てたりしてはいけない」「むしろそういう弱者や障害者や異分子を抱えながら生き抜いて行かなければならない」ということを、最大の骨格、根幹にすえている物語ではなかったのか。だからこそ、魅了され、共感した人も多かったのではないか。

それが二言目には「日本人ファースト」「末期医療は自費でまかなえ」「自分の子は健康だから医者にはかからなかった」などとぺらぺら口にする参政党を支持するとしたら、そもそもその思考回路というか感情回路?が私にはわからない。報道では、これだけ鬼滅の刃も参政党も、どちらの支持者も多いらしいから、絶対重なっているはずなのだが。「鬼滅の刃」の登場人物たちの生き方や戦いに一ミリでも感動したなら、いったいぜんたい参政党の言い分のどこに共感できるのだろう。

前にも書いたが、昔々、私が現職教員で大学にいたころ、指導学生の一人で、政治や社会について、しょっちゅう私と議論していた学生がいた。ある日彼は研究室にかけこんで来て、「ユダヤが世界を支配する」(多分ちがうが、まあこんな題名)とかいう本を読んだということで、いたく感銘を受けて、「先生、やっぱりユダヤ人は悪で滅ぼさなくてはいけない」みたいなことを熱烈に力説した。

「そんなに本一冊読んで信じ込めたら、著者もさぞ嬉しかろう」と言いながら、私は一応責任を感じて、「そういう人種とか出自とかで、ひっくくってまとめてものを考えるのは危険すぎる。同和教育の時間に川向先生(川向秀武という有名な大先生で、同和問題のすぐれた研究者で、講義も立派な内容だった)に差別はいかんと教わったでしょうが」と反論した。したらば彼は「いや先生、部落差別は絶対いかんですよ。でもユダヤはですね」とか言いつのるので私は吹き出し、議論がその後どうなったかは覚えていないが、どうせいつものように平行線で終わったのだろう。

あんたの辞書に「敷衍」ということばはないのか、と、その時私は言い忘れたが、後で思い出すたび、そのことを考えた。まあ彼を笑えない。イスラエルだって、ホロコーストは許さないと言いつつ、ガザでそれと変わらないことをしているんだから。
 だからって、私たちまで、それと同じようなダブルスタンダードで、頭の中を区分して生きる必要はあるまい。

庭の多分最後のユリを切ってきて飾った。一人で見るのはもったいないので、二本ほど、近所の人にさしあげた。横のグラジオラスは、上の家の玄関前のひと群で、いくら掘り起こして移植しても、残った球根から数本が生えてくる。ホースにひっかかる位置なので、倒れて地面にはっていて、しばらくそのままにしていたら、ダンゴムシにいっぱい花をかじられていた。あわてて切ってさしておいたら、新しいつぼみが次々開いて、けっこう目を楽しませてくれる。

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カツジ猫