日本シリーズ回想(2)
私はユーチューバーじゃないから、よく知らないが、「つまらない」「盛り上がらない」と言われていた日本シリーズに関する記事が、最近YouTubeに、よく上がるようになっている。その多くは阪神ファンの方が書かれたもので、要するに日本シリーズがつまらなかったというのは、阪神がわりとあっさり一方的に(でもないんだけどな、見ていた限りじゃ)負けたから、拍子抜けして、盛り上がりそこねたということだったのかなと思う。
それでも、YouTubeで記事を上げた方が、閲覧数や報酬はかせげるので、「くやしい」「阪神は何をしてるんだ」「セ・リーグの今後の問題点」みたいな内容でまとめた記事が増加して来ているのかも。そのどれもが、けっこう面白く、読みふけってしまう(笑)。何だか絶対比べちゃいけないことだけど、クマ被害が深刻になっている今、どこかの村で、おばあさんが、「クマを警戒しながら決死の覚悟で山でとってきた山菜」とかの宣伝文句をつけたキノコやなんかが売られているという記事を読んで、あきれてびびって怒ると同時に、人間のたくましさに感心してしまったりしたのと、少し似た気分を味わう。これなんか、他愛もない典型だけど、その一つ。阪神ファンって、こんなところは、さすがに年季が入ってると、あらためて思う。
それにしても、この記事に限らないけど、こういうのを読んでいると、いかにマスメディアや評論家の下馬評が、阪神有利、阪神勝利を予想していて、ファンはもちろん、大半の人が阪神優勝のシナリオを思い描いて、観戦していたのがわかる。それで結果があれだったから、皆がもう(特にファンでなくても)心の始末や持って行き場がなくて、失望と怒りを感じたのも無理からぬことだったのかもしれない。
私はいろいろ忙しくて、そんなこととは知らなかったし、どっちが勝つかどうなるかは、まったく予想がつかなかった。今ごろになって皆が、実は両者の差は圧倒的だったということで理屈づけようとしているようだが、ど素人目の私が見ても、毎回そんなに差があるようには見えなかった。
特に最終戦は、まずホークスが負けると思っていた。大竹投手のスローボールにホークス打者がまったく対応できなかったし、それとは別に大竹投手の活躍が何だかうれしかったのもある。
彼はもともとホークスの投手だ。新人のころ、なかなか援護点がもらえず勝利投手になれなくて、ベテランで名手の今宮選手が「ごめんな、今度はきっと点とるから」と謝ってくれて、ありがたくて涙したこともあったはずだ。チームが優勝してハワイ旅行に行ったときの特別番組の映像では、同行した家族とともに、夜明け前に有名な山の上に日の出を見に行っていて、暗い中で両親とインタビューに答えていたのも覚えている。
彼がホークスに来るまでの経緯や決意などは、喜瀬雅則氏の本「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」にも詳しく長く紹介されている。阪神に行ってからのネットの記事もちょくちょく見ていた。喜瀬氏の本やホークスにいたときの記事ではわからない、ちょっと風変わりでマイペースな側面を知って笑ったり、もともとそうだったのか、何か変化があったのかなどとも考えた。その独特の性格のまま、チームの皆に愛されているらしいのにも、それなりの活躍をしているのにも、ほっとしていた。今回ホークスでFA宣言した東浜投手や戦力外から巨人に移った板東投手にも、同様の充実した新しい活躍の場が生まれるといいと願わずにはいられない。
だから、大竹投手が得点を許さず、先発の役割をまっとうしたのも、むしろどこやら安心したし、その後の展開も何だかホークスが勝てる気がせず、まあ今日はしょうがないかという感じだった。
そうしたら柳田のあのホームランである。
打たれた石井投手はホークス優勝の後に球場で涙していたし、力の差があったと認めすぎるほど認めていた。シリーズ前に「ふだん通りにやれば勝てる」と言っていた彼の発言は批判する人もいるが、私は悪いと思わないし、ただ、その悔しがり方や反省から、絶対的な信頼をファンやチームから寄せられていた投手なのだということは、逆によくわかった。
そして世間も打たれた彼を責めないで、むしろ、ネットでホークスファンが、
「石井お前は悪くない。柳田がおかしい。いや俺らもよくわからないんだ」
というように、柳田が普通じゃないという感想が圧倒的だった。
これだけのことをしてのけながら、相手をまったく傷つけないし傷つけさせない柳田も柳田というか、偉大である(笑)。彼のなすこと言うことには、どこかそういう、敵も味方も笑わせて優しくさせる何かが、いつもある。
私も見ていて、驚きあきれて笑ったが、これまた何となくほっとした。私は山川穂高選手を決して嫌いではないのだが、優勝後にすぐバッティング練習を再開したという本人が一番よく知っているように、シーズン中の彼の打撃は決して好調ではなく、チームに貢献していたとは言い難かった。それが日本シリーズで覚醒したかのように打ちまくり、勝利の立役者になったのは、あっぱれだし、ありがたい存在ではあるだろうが、それこそ日本シリーズしか見ない人にとっては、彼がチームの要であり原動力のように見えてしまうのかなと思うと、少し割り切れない思いもしていた。満身創痍でチームを支えた選手会長や甲斐捕手の後継を必死で務めた捕手たちをはじめ、それぞれの役割を果たし続けたベテラン中堅新人の、誰も欠かせない一人ひとりが、皆記憶にも残らないのかと思うと、やはり残念だった。
柳田選手も、今シーズンはかなり離脱期間が長く、もはや、ときどき、「チームの顔は柳田ではなく周東だ」と言われたりするほどに、影が薄らいで来ていたし、不振のままに出場を続けた山川選手以上に、チームへの貢献度は低いかもしれない。それでも彼がホークスの顔として、しかもいかにもそれらしい「俺らにもよくわからないんだ」という非常識なすごさのホームランで最後を飾って「やはりチームの顔は彼だ」という圧倒的な存在感を放ったこと、さらに決定的なホームランをその後打って優勝を決めたのが、それこそ今シーズンの怪我人続出から若手台頭を象徴する野村選手であったことは、最終戦の思いがけない勝利であることともあいまって、いかにも今年のホークスを象徴するのにふさわしい展開で幕切れだった。大げさに言うなら天が配剤したかのような、この成り行きに私はこれまた大げさに言うなら、ある感慨を禁じ得ない。
やれやれ、何とか次回で終われそうかな。もうちょっと続くかな。
ちょっとおまけ。夕方テレビを見ていたら、周東選手が出演していました。彼はときどき、「はい?」とこっちが聞き返したくなるような、気になる発言をすることがあるので、耳をそばだてていたのですが、選手会長で鍛えられたのかガードが固く、お行儀のいい発言に終始していました。それでも、「栗原が次の選手会長なので、公的な場でのあいさつがうまくできるかどうか気になる。僕のあいさつを聞いて、『えーと』と言った数を数えて教えてきたりしていたから、今度は僕が」とか「一番対抗意識を抱いている相手は柳町。理由は慶応大学だから、田舎者としてはそこはやっぱり」とか「おでんの具は大根が好き。他は何もいらない」とか、まだ何かあったっけ、印象に残る答えをしていました。
ただこういうの、読むたび聞くたび思うのですが、彼は前に「今シーズンで一番評価したい若手は」と聞かれたとき、かなり迷って考えたあげく、海野選手の名をあげたように、無造作なようでいて、非常に的確に慎重に人を選びます。(ついでに言うと、イケメンで有名な板東選手がまだ新人で無名に近いころ、最初に「一番顔がいい」と指摘したのも彼でした。一も二もなく即座に賛成したのが柳田選手だった。笑)
その一方でわりとじゃれて言いたい放題言う親密な相手をそれなりに決めていて、栗原選手や柳町選手は、そういう甘えて何を言ってもいい存在としてキープしている印象も受けます。
以前にもどこか(どの優勝かの後の多分栗原選手とのインタビューでしたが、なぜか今その映像が見つからない)で、「選手会長として一番苦労するのは、目上のベテランのわがままを抑えること」と、おーそうなのかと驚かせることを言って、たとえば誰が、と聞かれるとちょっと迷って小声でこそこそ「近藤さん」と言っていて、おいおいと思ったのですが、あれも目上の中では、栗原選手や柳町選手と同様に、わりと何を言ってもいい気を許せる存在だったのかもしれません。本当に手こずっている難しい相手など、正直に言うわけないだろ、とつい思ってしまうほど、私は彼の危機回避能力を信じているのだが、買いかぶりすぎかしらん(笑)。
さらにしょうもないことを言うと、ずっと昔の若手のころからそうですが、彼は他の人と並んで椅子に座ると、かなり小柄に見えるのが常で、立った時とのギャップにいつもとまどいます。もしかして、それだけ足が長いのか、細身に見えるからなのか。女性人気は一番と最近では言われてるようですが、そういうところも得しているんでしょうね。
