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映画「アルゴ」感想(1)。

◇ベン・アフレックという俳優さんは、ずっと昔もう10年ほど前だっけ、サンタクロースがわさわさ出てくる映画で見たとき、外見は嫌いじゃないけど、なんかもう表情がまるでない人だなーとびっくりした。たとえばコリン・ファースとか英国俳優たちが、まったく無表情なのに感情をゆたかに表現するっていう、どうしてそんなことができるのかわからないような離れ業をやってのけるのとはちがって、ほんとにまったく顔から何も伝わってこなくて、これはこれですごいと思った。
今回の映画のこの役では、その無表情が効いてて、今まで見た彼の映画の中じゃ一番違和感がなかったかもしれない。

あとは、イランが女子どもを使った人海戦術でシュレッダーにかけた資料を復元するのとか、大使館をめぐる国際的約束ごとのはかなさとかあやうさとか、そういうところが参考になった。

◇でも、それ以外は何ともなあ。
やたらエンターテインメントとしてサービス満点で、面白くよくできているのはわかる。でも見ていれば見ているほど、さぞかし作りたくてたまらなかったんだろうなあということが、ひしひしわかって、ほおえましくもあったけど、その内にものの哀れをもよおして、しらけてしまう。

そりゃ、イランの人は怒るだろうさ。これ見たら。人によっちゃ、もう何回かビルを爆破しないと、アメリカ人はこたえないなと思うかもしれない。私も思った、白状すると。アカデミー賞は私の中でそんなにいい映画かどうかの基準にはなってないから、どうでもいいっちゃあいいんだけど、ただ、こんな映画を見るからにうはうは浮かれて作って喜んでる分にゃ、まあアメリカも最近つらいことが多いから、このくらいの気晴らしは大目に見たるかと思ってもいいけど、それにアカデミー賞やって、それも初の官邸からの中継で首相夫人が発表するとか言うのは、ちょっともう、冗談じゃすまない。国民栄誉賞乱発するどっかの首相とどっこいどっこいだ。

◇これも相当昔のことだが「トップ・ガン」つう映画があって、今から思えば気にしすぎに見えるかもしれないけど、ソ連を敵にして戦闘機パイロットが活躍する、単純すぎる内容が好戦的すぎると新聞などで問題になった。で、私も見たけど拍子抜けして、この場合のソ連は単なる悪役で、深い意味なんか何もないから、そう問題にすることもないんじゃないかと思ったものだ。まあ、それだから逆に問題ってことはあるかもしれないんだけど。

友人のキャラママさんが大学の授業でこの映画をとりあげて、「主人公にとって都合の悪い存在を悪とみなす」手法について話したとき、学生のレポートに「たしかに自分も主人公のライバルの同僚を『悪』ととらえていた」と書いていたのがあって、その学生はそれに続けて「この映画のソ連については、私は悪とか何とかまったく意識していなかった」と述べてたそうだ。まあそんなもんだろう。だから、この映画に登場するイランの民衆や兵士が、どんだけ野蛮でどんだけアホに描かれてたって、それは恐竜や台風のような、ただ災いをもたらす存在なだけで、そこには何の人間も描かれてはいないのだから、別に怒る必要もないっちゃあない。だからなお、いかんということはあるかもしれんけど。

◇くりかえすが、身内でこういう映画作って喜んでたいのはわかる。まあ、北朝鮮のニュース読むおばさんみたいなもんで、自分たちだけで見てれば楽しいだろうさ。でも、それを一応国の権威っぽい賞で世界に宣伝してしまうと、そりゃ何となく、在特会とやらの人たちが便所の落書きなみの悪口を白昼堂々プラカードで掲げて歩いてるような、見識のなさ、センスの悪さを感じるなあ、私なんかは。

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カツジ猫