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映画「ライフ・オブ・パイ」感想。

◇うーん、もどかしい。
かけねなしに、いい映画なんですよ。トラと少年が漂流するなんて、はっきし言ってキワモノかお子さま向きのファンタジーでしかないじゃないですか。それを、きちんと大真面目に格調高くバランスよくスケール大きくまとめてる、この完成度。何だかそこのとこは「ブロークバック・マウンテン」と共通のものですね。ファンタジーとリアルが絶妙にからみつつ、全体としてはきちっと清潔にしあげて、すきがない、って、そのあたりが。

「ブロークバック・マウンテン」のときも私がひょっとして一番好きだった、あ、もちろん他の部分も好きなんだけど、あのヒツジの群れの大移動がCGだったと後で知って、おおっとのけぞったんでしたが、今回もトラはほとんどCGなんだそうで。実物のトラを四頭、もとにした(って言うのかな)んだそうです。

そのことには不満はないの。大の猫好きの友人ほどではないけれど、いろんな猫の映画を見るたび、「あ、その猫の顔は、そんな時の表情じゃない。あ、そのしぐさは、耳の倒し方は、脚の動きは、そんな場面の表現じゃない」と、いちいち気になってしらけてしまう身としては、どんぴしゃりの顔や動きのCGでトラを作ってもらった方がありがたい。今回も、その点で、トラの映像に不満はありませんでした。

実物の犬や猫を使うと、「南極物語」なんかでもそうだけど、いろんなシーンでどうしても限界はある。日本の「南極物語」は私の大好きな映画だけど、あれは犬たちがひたすら雪原を疾走する場面が本物で、それが映画の重要な本質につながる映像だから、感動できるんですよね、文句なしに。あとは、構成やナレーションや人間側の演技でしっかりごまかしてくれていて、もちろんそれでいいわけです。

まあ、今回の場合、CGでもやっぱりパンフレットには、もとになった四匹のトラさんの写真と名前はほしいけど。最後の画面にも名前を出してほしいけど(出てなかったよね?ありました?)、とちょっと文句を言ってみる。

◇でも、それだけじゃなく、何だかなあ…。
CGのトラさんの映像が完璧だっただけに、なんかかえって、そこが不満が残るんですよね。
うまく言えないけど、超変な言い方だけど、あれだけの演技を実際のトラで見られたらどんなに幸せだろうかと思ってしまい、すぐひきつづいて、そういうトラが仮にいたとしたら、どこか絶対、あのトラとはちがうんだろうな、と思ってしまう(いったい何のことだかもう。意味不明と思ってる人多いでしょうね)。
なまじ、あらゆる場面で完璧なトラを見せてもらったばっかりに、まだ見ぬ、どこにも存在しない、でも本物の理想のトラにあこがれてしまう。そして、そういうトラに会えないことが、ものすごく、やるせなくて、淋しくなる。
うーん、美少女やイケメンのフィギュアを愛する感覚って、こういうもんなんだろうか(多分ちがうだろう)。

「ブロークバック・マウンテン」のヒツジの群れとちがって、この映画の場合、トラは少年以上に、この映画のかなめで、精神そのものですよね。
それがCGで、こういうもどかしい、やるせなさ、さわれない、つかめない、抱きしめられない思いを観客(私だけか)に与えてしまうのって、それはどうなんだろうなあ。
多分、あのトラがCGだって聞いたからこう感じてるんじゃない気がするんですよ私。それを知らないで、実物と思って見ても、まさかあんなに完璧な演技をするわけないってこともふくめて、どっかなじめなかったんじゃないのかなあ、あのトラさんには。

私は体当たりのリアルな演技って、あまり好きな方じゃなく、俳優があくまでもウソの演技をして観客を泣かせ笑わせてなんぼと思ってます。だけど、それでも、そこには俳優の生の肉体があって、それが何かを伝えてくることってあると思う。猫や犬やトラに詳しい人が見たら「ちがうよー」と言いたくなる不完全なものでも、現実の生き物だったら、やっぱり何かがあるんじゃないのかな、もっと、あのボートの上には。

長くなったんで、わけますね。

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カツジ猫