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最後の誘惑。

◇田舎の家の片づけに、文字通り忙殺されています。
しかし、実家へ往復する道は、今は若葉の真っ盛り。濃淡さまざまの緑の重なりがあふれていて、その間を遠くに鯉のぼりが時々泳いでいるさまは、こたえられません。

叔母の羽根布団がいくつもあるので、もらってもらおうと、実家のリフォームなどをやってもらった大工さんに来てもらいました。大工さんは隣町の人で、共産党の議員の応援をしています。そこの選挙はもう終わって十数年ぶりに共産党の議席が二つに増えました。「すごいね」と言うと、「まぐれだ。当選するとは思わなかった」と言うので、「そうなの?」と言って、あとで気づいたのだけど、あれは彼の謙遜か照れ隠しのようなものではなかったかしら。

◇そうやって大工さんと話している間に、ふっと気づいたのは、やはり実家の管理でいろいろお世話になっている共産党の議員さんにも、余った家具とかもらってもらおうと、電話しかけていたのですが、こちらの地域は投票日が明日(ていうか今日)。それどころじゃないだろうなと、来ていただくのは延期しました。

◇地方選挙の前半では共産党がわりと当選して、話題にもなっていて、理由の分析なども記事になっていますが、私に言わせりゃ本当はとっくの昔にこうなっていたはずで、共産党の主張や立場は、戦争反対、憲法守れ、原発反対、政党助成金廃止などなど、よかれあしかれ、前から終始一貫しています。それが今さら評価されるのは、マスメディアがそんな主張や政見をまったく無視して報道せず、政党の中にいながらその政党をぶっ潰すと言う首相やら、右から左までまったくばらばらで幅がありすぎる人たちの集りの政党やら、思いつきかと言いたいぐらいとっさにできた原発反対の党やらを、見苦しいほどお祭り騒ぎで持ち上げて紹介しまくり、共産党に限らず、それ以外の政党のことについては、最低限の情報や資料さえ流そうとせず、無視しまくって来たからで、まあそうやってわかりやすい話にすることで、国民の政治的無関心を何とかしようとしたのでしょうけど、結果は完全に裏目に出ました。

国民は自分の目で比較して政党や政治家を選ぶ機会を奪われ、明らかにそのときの「ひいき」に誘導していく新聞やテレビの論調を信じて、そのような勢力を支持し、自分たちの意見や選択が投票結果に反映したことを喜び、でもすぐにそれが裏切られ、期待と喜びの分が倍返しで失望と無関心に変わって行った。ただそれだけです、こんなにわかりやすい話もない。
今、新聞やテレビは「盛り上がらない」「争点がない」「無関心」などという方向に国民を誘導し、選挙への関心や応援や投票そのものがトレンドじゃない、ダサいことのようなキャンペーンを行っている。まあ、悪気はないんでしょうが、本当に不勉強で無責任で、ある意味、悪気がないよりなお悪いわ。

◇共産党に限ったことではなく、あらゆる政党の政見や主張を、きちんと紹介して、それぞれを支持する人の発言でも紹介して、あとは選挙に行かないのは、アホでカッコ悪いのだということをくりかえす、それだけで充分なんですよ、マスメディアの仕事は。

私は政治にも歴史にも社会にも詳しくないし、あえて言うなら関心もそんなにあるわけじゃない。だけど、自分が何とか無事に老後を過ごせて、自分の趣味で仕事でもある研究を心乱されずにやれるためには、戦争や原発は絶対に困るから、それを防いでくれそうな政党に投票しとく、ぐらいのことしか考えてません。政治的意識は低いし、知識もろくにないですよ。

その無知な私が見ていてもあきれるほどに、この20年近くのテレビのキャスターやコメンテーターの政治に関する不勉強ぶりはひどかった。知識もないし、何より世の中や未来に関する、漠然とした自分の展望も意見もまるでない。
それでもいいけど、いや、よかないけど、それならばそれらしく、気の利いたことしたりせず、愚直に、基本を守って、各政党の言ってることをそのままきちんと紹介し、あとは国民の選択にまかせればいい。そのくらい国民を信じたっていいでしょうに。というか、国民を信じないほど、あんたたちが何を知ってるわかってるって言うんだよ。聞きかじりやにわかじこみで、適当に目立つ党や組織に無責任に肩入れして世論誘導しようなんて、一万年早いよ、思い上がりにもほどがある。

◇私はこの20年間ぐらいで、日本の政治は本当にひどいことになったし、何より国民の政治不信や無関心は目をおおう状態だと思うけど、この間ずっと国民はまちがったことしてたとは思わない。自民党が金銭的に腐敗して目に余るようになったから、それをぶっつぶそうと叫ぶ内部告発者を信じた。それも結局ろくなことをしなかったから、今度は政党としてのまとまりもない不安定な別の党に期待をよせて大勝利させた。それがやっぱり期待したほどじゃなかったとわかって失望したけど、もう他に選ぶものがないから、話題になってるいろんな党に投票してはまた裏切られる。そこへもってきて、そうさせた張本人のマスメディアが、「無関心になるのは当然」と、橋本治風に言うならバカになる道へと誘惑する。

いや、くりかえしますけど、マスメディアもそうしようと思ってしたわけじゃないと思うよ。ただ、ろくな勉強もせず知性もみがかず(私もたいがいなこと言ってるけどなあ、自分のこと棚に上げて。でも、いつも何も知らない、考えが浅いと自覚して恥じてる私が、自分以上にそういう人たちがいるのかもしれないと感じてしまうというのが、実は相当つらいし恐いのよ)適当にその場しのぎで生きてるとしか見えない人たちが、できるわけない、身の程知らない世論誘導しようとするのが、ふしぎでならない。どうしてそんなに、背伸びして無理するの。普通に地道に、事実を報道するだけで充分なのに。考えてみたら、これもある種のまじめさなのかな。酒がないのに酒屋の看板あげてる以上、水でも小便でも売っちゃうしかない、みたいな。

◇報道関係者が何らかの立場を鮮明にするのじゃなく、中立を保って、でもそれなりの自分の見識や展望を持って、あらまほしき社会と、それにつながる政党や政治家について発言するのは、それなりの蓄積が必要です。そのときの選挙や情勢やましてや勢力関係をちゃちゃっと調べてお勉強して、知ったつもりわかったつもりになるような、ちゃらい知識じゃだめなんだよ。たとえキャスターやコメンテーターの隣に座って、「はああ」と感心してるだけのお姉さんにしても、そこでそういう何らかの反応をして、「これが普通なんだな。普通でいたい私もこれでいいんだな」と思いた

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カツジ猫