最後の高速?
仕事場と実家の行き来に高速を利用して居たのですが、割引も今日で最後です。当分使う事は無いだろうと思い走り納めをして来ました。
途中由布岳の麓を通過します。今日は雨ですし霧で見えないと思って居ましたら、山裾の辺りに白い雲を煙の様に棚引かせた今まで見た事の無い姿を見せて呉れました。山頂は藍色がかってくっきりと雲と空の中に聳え立ち不思議な躍動感に溢れて居ました。
帰宅すると母が玄関に明りを付けて居るのは良いとして寝室の窓のカーテンを開け放して中の小さい明りも付けた儘なので溜息が出ました。用心が悪いと怒ろうかと思いましたが、多分私の帰って来るのを窓から何度も覗いて待って居たのだろうと思って止めました。
食事は途中でして来るから済ませて置いてと言って居たのに、台所のテーブルの上には御椀の底にちょっぴりの吸い物、皿の上には野菜と唐揚げが少しだけ残してラップをかけて有ります。「貴女の分を取って置いた」と言うので「要らないと言ったのに」と冷蔵庫に片付けましたが余程捨てて仕舞おうかと思い、其の気持を抑えるのに苦労しました。
感情的なのは分かって居ますが、こうやって滑稽なまでに私の事を気遣うのが本当に私を苛立たせるのです。只もう放って置いて貰えるのが何より有難いのですから。
そして此れも何時もそうなのですが、「猫のモモが餌を食べないで死にかかって居る」と言います。母の入院中週に一度しか来ない私が一週間分の餌をやって、せいぜい一晩二晩可愛がって居ただけで、丸々太って元気に走り回って居たのですから、母が私の気を引こうとする嘘なのが分かって居るだけに我慢も限界で「変ね、貴女が入院して居た間、あんなに元気だったのに」と申しますと「何日か前から何も食べなく成ったのよ」と言います。
餌入れを見ると、母は缶詰だと綺麗に処理しないで腐らせるのでドライフードだけ渡して居るのですが、其のドライフードの上に多分魚か刺身のカラカラに涸びた残骸が有って、だから猫だってドライフードも食べないのでしょう。何故か水入れの器が三個も並べて有って水だけがなみなみと入って居ました。
古い餌と水を捨て、新しい餌を入れると猫は喜んで食べて居ます。母は其れでも「もう御刺身をやっても食べないのよ」と嘆いて見せます。
母は自分が刺身を食べたいのか何時も猫に分けて遣るからと刺身を欲しがります。ヘルパーさん達はなまものを警戒するので余り買っては来ません。前は魚屋さんが来て呉れて居ましたが、母は沢山買い過ぎて腐らせる事が多く、母の入院の間魚屋さんが来なかったのを機会に私は自分が実家に帰る時に買う様にしました。
今回私は疲れて体調も悪く最後の高速割引は体験しなくても良いから電車で帰ろうかと随分迷いました。結局疲れを押して車にしたのは、母が猫に分けるからと執着する刺身を途中で買う為でした。(近くに魚屋が無いので徒歩で買いに行けないのです。)果たして疲れはひどく気分も悪く、最低の気分の時にそう言われたので、思わず「そう、じゃ刺身はもう要らなかったね。モモもそろそろ死ぬんでしょう。別に良いんじゃない、それでも」と答えました。「そうね、寿命だしね」と母が言うので、「死ぬ死ぬとずっと聞かされて来たからもう興味なくなったわ」と返して、「明日が早いから寝る」と自分の部屋に入って仕舞いました。
母はさぞ失望したと思うし私は言う事する事で母の精神を叩き壊して居ると言われても仕方が無いと痛感しますけれど、私の方も神経がささくれだって居て精神的に限界の状態です。
煙の様な白い雲の中に聳えて居た山の姿が目に浮かびます。美しかったけれど気高かったけれど、そう言えば何処か此の世から遠ざかって狂気を漂わせて居た様にも見えた事を思い出して居ます。