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東干。

◇昔、同僚だったフランス文学が専門なのに、やったらパソコンに詳しくて、自分で解体して組み立てるとか、自宅に10台ぐらいパソコンがあるとかいう、すごい先生がいた。「独学なのに何でそんなに詳しいの」と私が不思議がると彼は、「同じテーマの本を何冊も読んでると、ひとりでに頭に入るものだ」と言っていた。たしかにそれはそうかもしれない。

というわけでもないのだが、最近日本会議に関する本を、何冊か注文したのが一気に届いて、しかも10月11月の仕事もそろそろ風雲急を告げて来て、一方だらだらはまっていた戦争関係の文学も、そろそろちがうジャンルのものを読まなくては精神がかしいで行きそうな気はするしで、別のジャンルの文学全集の本を棚から引っぱり出して来ていたのだが、やっぱりなじんだジャンルというのは読むのが苦にならないもので、つい「戦争と文学」シリーズの「日中戦争」の巻をのぞいてみた。したらば冒頭の胡桃沢耕史の「東干」が、これまた妙に面白くてやめられなくなり一気に読んだ。

いやもう、あれよね。「その人にあらず」を読んだ時も思ったけど、ひと昔前の中国大陸って、日本人にとっては壮大なロマンの舞台でもあったわけよね。無惨な太平洋戦争の記憶の前の中国は、戦争でさえも、気宇壮大で日中ともに悠然としてつきあってるのが、よくわかる。
にしても「東干」と来た日には…(笑)。私もう冗談じゃなく嫌味じゃなく、ネトウヨと言われる人たちがこれ読んでどういう感想持つのか、何を感じるのか、誰に感情移入するのか、すごく知りたい。

森何とかいう日本の偉い軍人が戦況を有利にするため、中国内部の抑圧されて反抗している「東干」という少数漢民族を味方につけようと、ものすごく独断の思いつきで自分勝手に思うのね。そして昔の同級生で、ホテル王の西欧かぶれのエリート(と森さんは思ってる)に、その東干のリーダーに、末娘を嫁がせろと命令する。「あの子はまだ子どもで人形や押し花の詩集に夢中になってる」と超びびる父親に、森さんは、「男なら14で士官学校に入る。女でもお国のために身を捧げるのは当然」とか言うて、無理やりにことを運ぶ。

その娘の由利さんがまた愛国と婦徳かなんかがモットーの女学校に行ったもんだから、父親がとめても、この話に積極的で、私は国のためにそのくらいのことはしますみたいな勢いで、しかも東干ってイスラム教で一夫多妻とかいろいろ大変なのに、そんなことはものともせず、美人で才媛だから中国語もイスラム語もあっという間にマスターし、嘆く父親を残して大陸に行っちゃう。

当然日本軍の護衛がつくんだけど、それに選ばれるのが鹿児島出身のすごい醜男で妻に女の子が生まれたばかりの二等兵で、もう庶民も庶民、貧困層の農民で、これなら中国人の苦力(クーリー)に化けても何ら不自然ではないというだけの理由で選ばれたって、いろいろもう、民族蔑視地方蔑視すべて重なりまくりですが、そんなこと気にしちゃいられない話なんですみません(笑)。

あ、ひとつ言い忘れてたけど、相手の東干のリーダーも由利さんが嫁に来るのは理解了承してるんですが、この馬何とかという青年が、天草四郎の再来とか言われる大変な白皙の美青年で戦いも強い超カリスマ。で、その美しい中国人の青年のもとへ、醜い鹿児島の庶民の男と、美貌で勝ち気で夢見がちな日本娘がラクダに乗って砂漠を旅して行くんですわ。途中で雹が降ったりして、いろんな冒険をしながらさ。

ほんとに別にネトウヨでなくても、今の日本人がこれ読んだらどう思うんでしょ。左翼のプロレタリア青年だって、どう思うのやら。鹿児島男に共感するのか、美貌の馬さんに共感するのか。どっちも普通にいい人だし。

それにしても、この由利さんが拳銃をかくし持ち、高飛車で冷たいお嬢さまで、鹿児島男を人間扱いもしてないので、今風のポルノに腐った目で読んでると、絶対その内砂丘のそばで、この令嬢をレイプするんだろうなしてもいいかもとか、とんでもないことを思ってしまうのは私だけだろうか。(以下ネタばれ)しかし一切そんなことはなく粛々と旅は進むので、まー、フェミニズムもジェンダーもなかった時代でも、こういう話はちゃんと書かれて読まれていたのかと、そこもちょっと感じ入る。
由利さんがそのように冷たいわけも、最後まで読むとわからなくもないのが、またうまい。

ぜひぜひ、ネトウヨの方に読んでいただきたい。他の方も、ネトウヨになったつもりで読んでいただきたい。そもそも日本会議的視点から言って、由利さんは日本女性としてどうなんでしょ。もしかしたら、ものすごく正しい生き方してるかもしれないんですけどね彼女。大和撫子として。

それはいいんですが、ネットでつい検索したら、作者はこの題材でいくつか長編も書いてるみたいで、「天山を越えて」とか。これも読みたくなったなあ。注文したくてしかたがない。いかん、どんどん深みにはまる。

◇なかなか映画を見る時間が取れないのにブチ切れて、昨日の夕方から夜中にかけて、「ペット」と「ゴーストバスターズ」をはしごして来ました。どっちも面白くて満足しましたよー。感想はあとでまた。

◇ところで自民党は「共謀罪」を今国会には提出しないことにしたとか。では当面、超危険なのは「緊急事態条項」ですね。これは絶対認めてはいけない。

◇民進党の幹事長が野田氏になったことで、がっかりして怒っている人が多いです。この予想を裏切ってくれるといいのですが。というか、裏切らせるのは私たちの力ですよね。

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◇んー、まだ何かあったっけ。台風はもたもたしているようで、雨は降らないけど、むし暑いです。明日はうちの近くの赤間西コミセンで、ファシズムについての講演会なんですが、お天気もつかなー。講師のお話は、とてもわかりやすくて面白いらしいので、おいでになれる方はぜひ! 14時から16時、二階の大会議室です。参加費は500円、大学生以下は無料です。

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カツジ猫