母と、母の母（３）

鹿児島の金山で金が取れるという儲け話が舞いこんで来た時期の、祖母の手紙。結局これは詐欺だったのだが、被害には遭わずにすんだようだ。当時の社会情勢がうかがわれて面白い。

手紙の保存状態はびっくりするほどいいのだが、これは少し虫が食っていて判別できない文字があった。使われている便箋はいつもと同じ祖父の経営していた病院のもの。「舜元」は祖父の雅号？で、祖父は本名の「留一」が庶民的すぎて嫌いだったらしく、この雅号をよく使っていた。次男の名もそこから取ったのだろう。

御手紙有がたう　お金と行きちがひになったかね　最う受取ったでしょ　あれでは不足したでしょ　後どれ程送ったらい□か知ら□
今朝元ちやんあての小包たしかに受取りました　学校から帰つて一人であけて見てとてもよろこんでました　そして是丈け送ったのだから大分金が要ったゞろうから五円位送ってやらねばだろうなんて云ってましたよ　御祖母さんには後からやってもいゝから足りないところに使ってをき成さい　クルミはしっかり机の中にしまってこれを三つ食べると頭がのぼせるやうにある□と云って□しんでます　例の金山もいよいようまく行きましたので六日に御母さんが元をつれて鹿児島まで二三日のつもりで行きます　石を掘って水車でつき　そして金を取ってお目にかけるから是非居らして下さいと坑夫長が云って来ましたからね　元ちやんに欠席をさせてまで氣の毒だとおもひますが御父さんが女一人はやれないからとお心配して元に相談して見ましたらひどく喜んで今日は割引券を貰らつて来ましたよ　目の前で十匁位金を取って見せますって十匁は百三十円ですよ　取った丈け持ってかへりましょ　この頃は金山の件で平田先生方が二日をき位に見えますし一々御飯を上げますので女中は何も出来ませんしお母さん一人で台所さあ銀行電報電話手紙ととてもせわしく落ちついてペンも取れませんのよ　入院患者に四人共食事を出しますし何もかも一度に忙わしいことです　でもまあ金もうけだから一生懸命にやってます　今日は一寸兄さんにもあなた方二人にもかきました　三月から一月の内に住友か片倉に売るようになりますでしょ　今度はウントつかまねばとしつかりやってますよ　親類中が金の為めにクウクウ云ってますから何ふしても一もうけせなくてはなりません
時候のかはり目で天気も悪るいしよく注意してね
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　母より
　　澪子様

四月三十日