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氷の女王

初代猫おゆきさんの命日が近いので、彼女の墓のある、中庭の草取りをした。日が昇らない内にと思って目覚ましをかけて六時起きして、ジャングルみたいになってたのを何とかすっきりさせた。金網の外の奥庭のことはもう知らん(笑)。今月は裏の崖の擁壁の工事が始まるから、工事の人がついでに草を切ってくれないかしらんと甘い夢を見ているが、そううまくも行くまいて。

おゆきさんは、「雨の夜のある町から」「ハイタッチ」にも登場する、しっかり者のきじ猫だ。大学院生時代から就職後まで、ずっといっしょに暮らした。当時はあまり猫をとじこめて飼う人はなく、彼女も私が移り住んだどこの町でも自由に歩き回っていた。

ここに越してしばらくしたころだったと思うが、彼女は身体に針金を巻きつけて帰って来た。落ちついた顔をして、畳に寝そべってゆうゆうと顔を洗っていて、私が外してやる間も、その後も、どうということもない顔をしていた。それで私も何となく、どこかの畑の柵か何かにひっかかってからみつかせて来たんだろうと思って忘れてしまったが、今思うと、もしかしたら誰かにつかまって川に放りこまれるか木につるされるかするところを、抵抗して逃げて来たのかもしれない。
たとえそうだったとしても、彼女はちっとも動揺も興奮もしていなかった。その時だけではなく、いつも冷静で、賢かった。時々、妙にはしゃいで、子猫のようにはねまわったり、かけ回ったりする若々しさもあった。彼女が死んでしばらく、私は年上の頼りになる友人をなくしたように、妙に心細かったのを覚えている。

岐阜の山裾の小さな一軒家に二人でしばらく住んだことがある。私はその頃、学会や調査旅行で一週間近く留守をして、彼女に留守番させておくこともしょっちゅうだった。ある寒い冬の夜、そうして旅から帰って来て、暗い凍りつくような家に灯りをつけたが、猫の姿はなく、その内帰ってくるだろうと、荷物を片づけ食事もすませて、こたつの奥に足を入れたら、いつもと同じ手触りの、少しぱさぱさの毛皮のかたまりにさわった。えっと思ってこたつをのぞくと、彼女はそこに香箱を作って黙って座っていた。

「いたの!?」と、抱いてこたつから出して膝にのせると、あいかわらず黙って、かちんと固まっている。そっと撫でつづけていると、ようやくだんだん溶けてきて、やわらかく身体を預けて、のどをぐるぐる鳴らし始めた。相当怒っていたのだろう。今のカツジ猫や、こよなく愛したキャラメル猫にだったら多分するように、私は笑ったり声をかけたりはしなかった。ごめんねとさえ言わなかった。そうさせない、誇り高さと礼儀正しさを、おゆきさんは常に持っていた。

ときどき、むしょうに、なつかしくなる。もう死んで三十年近くになるけれど。

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カツジ猫