盆前の田舎
※田舎の家に御住職が御経を上げに来て下さる日が今日だったので、仕事を済ませて慌ただしく帰って来ました。仏壇と仏間の掃除をし御供え物を飾り、玄関前の草を汗だくになって抜いて居たら御住職が見えてしまい、着替えもしない儘で御経を上げて頂きました。
車の音が聞えなかったと思って居ましたら、自転車でいらっしゃったのでした。「まあ、御住職、御元気ですねえ」と思わず申し上げたら、「村の中の道は狭いので、此れが一番早いんですよ」との事で、炎熱の中帽子も被らず、自転車を飛ばして行かれました。
御盆前には又御墓の花を代えて置きたいので、もう一度来る積りで居ます。今から一休みして私も仕事場に帰ります。庭の草が茂り放題の中、さるすべりの木がピンクの花を一杯につけて居ます。
※母は此の頃とても元気でテレビで若い人達が無人島暮しをして居るのを見ては「私達は昔長崎で夏には皆海に行って泳いだし潜ったし泳げない子は居なかった」と威張るので「今でも出来るの?」と聞くと「そりゃ出来るさ」と確信をもって答えました。こんな時母は本当にその手足が楽々と水をかいて進むのを実感しているかの様で、自分の力に何の疑いも抱いて居ないのが良く分ります。本当に泳げるのかも知れません。(笑)
それで安心して居ましたら何日か前に突然高熱が出て老人ホームのかかりつけの先生に往診して貰いました。仕事の関係で携帯を切って居たので私は知らなくて、夜に行って見たら母は眠り込んで居て起きる気配も無く、先生は「肺炎を起こしたら大事になるかも知れません」とおっしゃるので、「いざとなったら延命措置はしなくて良いけれど、苦しくない様な治療は何でもして下さい」と申し上げました。
でも母は翌朝には元気に成り、その夜私が行くと変わった事もなく、「昨日熱が出たんだって?」と聞くと「あらそうだった?」と何ひとつ覚えて居なくて笑って居ました。
御蔭で安心して実家に帰れたのですが、もし母の具合が悪く成って居たら死んだ御先祖様の供養と母の最期を看取るのとどっちをどの様に優先するのか、咄嗟に困った事でしょう。何となく、妻と娘が別々の場所で同時に誘拐され殺されようとするのに必死で対応する男が主人公の筒井康隆「虚人たち」を思い出しながら車を走らせて居ました。
※窓から見える草の茂った庭の中を、大きな揚羽蝶がひらひらと飛んで行きます。そろそろ仏間を片付けて来ましょう。昨日の夕方御墓に行って御先祖様達に「帰りましょうか、御盆ですから」と行って連れて来た積りなのですが、「御盆まで此方でゆっくりくつろいで居て下さい」と仏壇には御参りして置きました。