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素材もぼろい

昨日は果たして夕方まで一滴の雨も降らず、だめもとで干していた洗濯物まできれいに乾いてしまう始末。口ばっかりの岸田政権みたいと、おなじみの悪口を言いながら寝ましたが、さすがに夜明けには雨風が激しくなって、でももう今は静かになってしまいました。ありがたいっちゃあ、ありがたいけど。庭の被害もこれと言ってないようで、クリーム色のカンナも何事もなく咲いています。よかったわ。

昨日のアベほめ本の話の続きです。
人物のイメージなんて、私に言わせれば、正確かどうかなんてわからない。徳川家康、豊臣秀吉、織田信長、平清盛、源義経、いずれも本人たちにとっては「これ誰」と言いたいところもあるでしょう。それでも、ちゃんとまとまって楽しければそれでいいぐらいに私は思っています。そのへんはご用とお急ぎでなければ、もう絶版になってるかもしれないけど、中公新書の私の「平家物語」とか見ておいてね。

以前、ツヴァイクの「ジョゼフ・フーシェ」を文庫本で読んで、その面白さに抱腹絶倒しまくりました。後に辻邦生が「フーシェ革命暦」という大作を書いて、私は単行本で読んで、その誠実なフーシェも好きでしたが、ツヴァイクの作り上げた右顧左眄で生き残り上手なフーシェ像のインパクトは消えなかった。ツヴァイクの伝記って別に全部好きなわけでもないですけど、「ジョセフ・フーシェ」は読み物として、歴史やフーシェを覚える教材として、最高だと思う。

嘘や誇張やデフォルメがあったって、その人物の本質をとらえた造型で、その人物を永遠に人の心にとどめることはできる。ちなみに、そうしてもらったからって運がいいとか幸福とかも私は別に思わない。私の親しい人に残してる遺言メモには、偲ぶ会とか絶対するな、追悼文集とか断じて作るなという一項があって、そもそも私自身だって自分のこととかよくわからないし、誰にも話してない体験や経験がいいのも悪いのも十指にあまるほどあるし、人には嘘ばっかりついて虚像ばっかり見せてきたし、ろくに私のことを知りもしない人たちから、勝手にまとめられたり分析されたり解釈されたりするのなんてごめんこうむりたいから、とにかく死んだら即忘れられたい、消えてしまいたい、何か今後の研究や誰かの人生に役に立つ論文とか作品とかがあれば、それは私という人間とは切り離して利用し活用してほしい。

だから、昨日の文章で「こんな追悼文集しか作ってもらえない」安倍晋三を気の毒に思ったのは、もっといいのを作ってもらったらいいのにとか、そういうことでもないのですよ。むしろ、こんなの作らないで、国葬なんてもちろんしないで、静かにそっとして忘れられた方が、彼にとってはどんなにか幸せだったろうと思うわけです。

私がこんなこと、ちまちま言ってるのも、つまりは私の器のちっぽけさで、有名無名に関係なく、私の周囲のすぐれた人たちは、追悼文でも偲ぶ会でも気にもしないで受け入れて笑っていると思います。そして、そうして作られた人物像のいろいろは、それなりに魅力的です。

だけどさ、あの四冊のアベほめ本には、そういう虚像としての安倍晋三さえ見えないのよね。何かもうでっちあげるにしても、これはもう、ろくな素材が見当たらなかったんだろうなというしかない。業績にしても発言にしても日常にしても、何も印象に残る、特筆すべき魅力的なことがらを、誰も何一つ、覚えてない、目にとめてないと判断するしかない。

私は以前、このホームページで、「ホークス三軍はなぜ成功したのか?」という本について、相当長々書いたことがありますそこに登場するホークスの選手たちは一人ひとりがそれこそ鋭利なノミですぱっと切り出され、彫り上げられたように、鮮やかに描かれてみごとでした。甲斐選手のいじらしさ、牧原選手のいじましさ(ものすごくほめてるんですからね、これ)、周東選手のしたたかさ(これもほめてます)、彼らの片言隻句から経歴から、その人柄と未来までが浮かび上がって来るようでした。

彼らは言っちゃ何だが、たかが棒で球をひっぱたくゲームをしてるだけですよ。ひきかえ安倍晋三は日本や世界の命運にかかわり、国民や人類の運命をその手に握って左右してる男ですよ。よっぽどすごいスケールのドラマや心理劇や葛藤が周囲にうずまくはずですよ。それで何一つ、そのような実像も虚像も浮かび上がらないって、これだけのページや金を費してそれを描き出せないって、どう考えてもおかしかろ。周囲も周囲なんでしょうが、やっぱり素材がぼろいんですよ。それが悪いと言うんじゃないけど。だから生きてちゃいけないとかは言わんけど。

もうさ、かったるいから雑誌からはいちいち引用もようせんけど、早川タダノリさんて方のツイートをコピペしとくと、こうですよ。

賛美するポイントがこれか:櫻井よしこ「例えば安倍氏は、超一流の家系に生まれました。幼少期から「リーダーとはいかにあるべきか」という帝王学を身につけていたのでしょう。だからこそ、揺るがない国家観を持っていました。これぞ「真のエリート」です」(『WiLL』2022年10月号、門田隆将との対談)

こんなんしかないんですよ、ほめ言葉が。最高に親しくて尊敬してるはずの人たちからの。冷たすぎるやろ。雑すぎるやろ。安倍晋三のこと、ちっとも好きでも何でもないやろ。としか思えない。
この人たちのつきあいって、人脈って、こういう程度の水準のものなんでしょうか。相手の顔は票か札束かポスト(郵便入れるやつじゃないよ)かにしか見えないんじゃないか。

げほげほ、なんかもう朝から疲れました。海外ドラマでも見て、リフレッシュして体力ついたらまた来ます。

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カツジ猫