職務怠慢
いつものように、ハーマン・メイジンの笑話集「野球天国」から何か引用しようと思って、ぱらぱら見てたら、こんなのが見つかる。
馬鹿にするな
満塁のピンチになったので、ジョウ・マッカーシー監督は(ヤンキース)ダッグアウトを出て、マウンドの畸人レフティー・ゴメス投手の傍らに歩み寄った。
「いいか、レフティー」とマッカーシーは戒(いまし)めた。「ランナーで満塁だってことをしっかり心にとめて忘れるなよ」
ゴメスは呆れたように、つくづくと監督の顔を見た。
「あんたは僕があの連中をなんだと思ってると思うんです? 余分に配給された内野手だとでも―?」
これ、昔読んだときも好きな話のひとつだったんだけど、今読むと、改憲の国民投票に関する通販生活の、このCMを思い出してしまう。国民投票で賛否を訴えるCMを規制しないという法律が決まったため、財力のある側が一方的に大量のCMを流す恐れがあるという警鐘だ。
最近超忙しいので、国会中継もろくに見てないが、ちらとネットでのぞいたのでは、首相が改憲の理由に「自衛隊を明記しないと、募集しても人が集まらない」という、新しい理由を言い出しているようだ。
もう本当に出たとこ勝負の行き当たりばったりの、そのへんに落ちているものを手当たり次第に拾ってくるようなことばかり口にするから、いちいち論破していると、こっちの頭も悪くなりそうでいやになるのだが、どう考えても、募集して人が集まらないのは、憲法のせいじゃなくて、首相が無責任なことを世界で言い散らかした結果、うっかり自衛隊に入ったが最後、危険な戦場にいつ行かなくちゃならなくなるか、マジでわからなくなったからなんじゃないの。
私も、とことんやけな冗談を言うとだね、ほんとにそんなに真剣に自衛隊の人不足を心配して、応募者を増やしたいと思うんだったら、もっともっとブラック企業を増やして、奨学金も返せとせっついて、武器をどんどんアメリカから買って、若い人の生活を苦しくして、除染か治験かしか働き口がないようにした方が、きっと早いだろ。
それはそうと、私は自分の指導学生が自衛隊に入って、「大切な人たちを守りたいと思います」とかメールをよこしたとき、「すまんけど、その守る対象から、私ははずしておいて下さい。ついでに言うと、あなたが入隊に際して決めなくてはならない覚悟は、大切な人を守ることではなくて、国のためには大切な人も殺すという覚悟ではないのですか」と、別に全然いやみでも皮肉でもなく聞いたのだった。
自衛隊とか警察官とか刑事とかが、まず決めなくてはならないのは、愛するものや大切なものを守るということではなくて、国や国民や市民のためなら、愛する者や大切な者や家族や恩師や恋人も殺すってことじゃないのかね。
自分の愛するものや大切なものを守るのなんて、一般人でも誰でもすること、軍人や警官や役人がそれやったら、公私混同の職務怠慢だろうによ。