腹立つわー、不安だわー
体調やら仕事やらで家にこもりっ放して、政治的社会的活動をまったくサボっている私がこんなこと言う権利はないかもしれないが、それにしたって不安だわー。
思い起こせば去年の暮れよね。自衛隊の式典か何かで就任まもない岸田首相が「先制攻撃もあり」とか、しれっと発言して私は腰を抜かし、内閣が吹っ飛ぶほどの大騒ぎになるかと思っていたら、世間はしーんとしてワイドショーも週刊誌も騒がず、いいんかいと思っていたら、何ヶ月かして、ぼちぼちばらばら、やっとそのことが問題になりはじめたんだっけよたしか。今年の三月にも、そのことちょっと書いている。
それでもって、今度はバイデン大統領が来日して、一昨日も書いたように、このあたりの全体の流れも実に気にくわんのだけど、会談後の共同記者会見で、岸田首相は画期的に防衛費を増加するとか公言した。広島出身の総理として核なき世界をめざすという宣言とセットになってるというのが、ものすごくグロテスクな感じでもあるが、とにかく、これまた防衛費のものすごい増加を堂々と言ってのけるなんて、昔なら国会は騒然、内閣は総辞職ぐらいになりかねない大問題発言やろうが。
それなのにNHKも民放もワイドショーもまるで聞かなかったことのようにスルーして、バイデンさんが台湾有事のときは介入するみたいなこと言ったのは本心か失言かとか、延々ぐだぐだ検証してる。よその大統領の意図なんかさぐってる暇に、ウチの岸田が何言ったかをしっかり取りざたすべきだろうが、どう考えても。それで国民はほんとにいいんですねとか、意思統一ぐらいしとかなきゃ、知らんぞあとあとどうなっても。
私が更に危機感持つのは、私のツイッターに流れてくるリベラルっぽい左翼っぽい人たちでさえ、この発言に何の反応もコメントもしてないんですよ。裏の火山が爆発して溶岩と土石流が流れて来ようかっちゅうときに、庭のハンモックで昼寝してる人を見てるような無気味な印象だ。賛否はともかく、騒げよ。注目して問題にしろや。岸田首相って、確信犯か何かしらんけど、本当にこうやって無難に人に毒を飲ませてじわじわ殺すよな。これだけ言ってどのくらい皆が騒ぐか反応みながらやってるとしたら、次はもっとすごいこと、しれっと言い出して既成事実にするんじゃなかろか。
とにかく、この忙しいのに、精神に悪い。ユーゴーの「九十三年」で、ラントナックが遠くの鐘楼でいっせいに鐘が鳴っているのが見えるのに逆風で音が全然聞こえないという場面があって、後にソルジェニーツィンが、その場面をとりあげて、自分一人が音なき警鐘を耳にしている恐ろしさについて書いている。そのことも思い出す。
それはユゴーの『九十三年』にある。ラントナックは砂丘に座っている。彼はいくつかの鐘楼を一望のもとに見ているが、これらの鐘楼の上では騒ぎがもち上がっている。全ての鐘が警鐘を鳴らしているのだ。だが暴風が音を運び去ってしまうので、彼に聞こえるのは-沈黙である。
これと同じように、まだ少年時代から、なにかしら奇妙な聴覚によって、ネルジンにはこの音なき警鐘が聞こえていた。それは、絶えず執拗に吹き続ける風によって人間の耳から運び去られた、死にゆく者たちのあらゆる生きた響き、うめき声、叫び声、呼び声、悲鳴であった。(こちらの論文の引用からコピーしました。)
もっと思い出すのは筒井康隆の短編で、人よりもすごく速い時間で動けるようになった男が、それをいいことに盗みやなんかしたい放題していたら、ある夜、巨大なタンクローリーの車輪にはさまれて、道路でゆっくりぺちゃんこになって行くしかなくなる(つまり彼にとっての時間は流れが速いから、一瞬のできごとが、すごく時間がかかるのだ)って、恐い話だ。誰も気づかないうちに一人じわじわ足先からぺちゃんこにされて行きつつあるような絶望と恐怖に私は今とりつかれている。