貸金庫
はー、まじで仕事が進まないし、世の中では変な事件ばかりが次々に起こるなあ。北九州のコンビニでの中学生男女の殺傷事件も無条件にムカつくし、三菱UFJ銀行の貸金庫事件もひたすらにうっとうしい。
貸金庫は私も使っているが、大したものは入れていない。昔の写真とか、母の描いた絵とか、多分他人には価値のないものばかりだろう。ちなみに家にも金はほとんどない。財産といったら、家と土地と本ぐらいか。
ただ、十数年前に、富裕層のはしくれの叔母が亡くなって、その遺産を顔も見たこともない十数人の親戚に分配したときは、一時的に恐ろしい額の金を手にした。数回生き直してもかせげないような大金で、さすがに恐ろしかったから、近くの銀行の貸金庫に預けた。今、使っている銀行とは別で、それまで取引のなかったところだった。ちょっと古めかしいシステムで、行員が、その都度奥の部屋から金属の箱を出して来て、店先で私が出し入れした後で、箱をまた行員がしまいに行くというかたちだった。
ところが一度仰天したのは、私が返した箱を奥に持って行こうとした男性店員が、ちょうど窓口に来た、お得意様らしいご婦人にせっせと応対し始めて、莫大な財産の入っている私の金属の箱は、本当にちょいと斜めに、そばの荷物の上に置きっぱなしにして、ろくに見もせず、長いことそのままにしておいたことだった。
気になるので、しばらく私も窓口のそばに立って箱を見張っていたのだが、他の行員も行き来する中、彼はそれには目もくれない。多分私はおなじみの顧客じゃないし、見たとこぼさっとした中年になりかけの若い女だから、まさか箱の中に家やマンションが即金で数軒買えるほどの金が入っているなんて想像もしてなかったのだろう。
話が一段落したときに私が「ちょっと、それ…」と声をかけると、あ、と悪びれた顔もせず、箱を奥に持って行った。あわてた風も全然なかった。
むろん私は、その金を親戚に配りまくって手元には残さず、いろいろとええかげんにせえやと思った、その半数近くとは、これがもう手切れ金と思えば安いものとばかり二度と連絡も関係も持たないことにして、おかげで今は実に快くせいせい清々しく生きているが、空になったその貸金庫も、もちろん即座に解約し、その銀行にはもう金輪際近づかなかった。
実際そのころの私のストレスと消耗はものすごくて、一度は猛暑の街中の交差点のまん中で、へたへた座り込んで顔をおおって数秒動けなかったぐらい、手続きや書類処理の心労は想像を絶した。できれば自分が死んだ後もあんな思いは誰にも味あわせたくはないから、せめて遺言状その他はきちんとしておくことにしている。
とにかく、それ以来、銀行にも貸金庫にも、まるで信頼はおいてない。今回の事件のことを聞いても、とっさに目に浮かんだのは、あのつるんとしたカエルの面に水をかけたような若い行員の顔だった。どうせ今は偉くなってるのかも知れないが、あんな神経で客や金を扱っている人も多いんだろうと思うだけで、ちっとも頼りにする気になれない。
ところでホークスの甲斐選手は移籍するのか。何だかそんな気はしていたし、長いこと楽しませてくれたから、感謝して今後の活躍を祈るしかないけれど、見慣れた家具がなくなったように、ものたりなくはなるよなあ。何だか千賀投手まで、いっしょに消えてしまうような感じがする。
写真は先日買って飾った、雪のような美しい花。まだまだ元気に咲いている。