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静かな町

今週いっぱいジムが正月休みなので、体重を増やさないために、運動をしておかなくてはならない。
というわけで、年賀状の返事を嵐のような書き上げたあと、いつも行くスーパーが、たしか元旦から初売りだったので、どんなものか見て来ようと思って、三十分ほどかかる距離を徒歩で出かけた。

コートのポケットに、賀状の束とスーパーのキャッシュカードだけを入れて、身軽なので、速く歩けた。もう日が暮れているし、月は半月で薄暗い。おかしなもので徒歩なのに、ついいつも車を走らせる道を選んだところが、家も人通りも街灯もない田んぼの中の道で、今日は車も通っていないし、こんなところで通り魔かひったくりに会ったら、しばらく死体も見つからないんじゃないかと思った。とは言え、通り魔やひったくりにしても、正月から、これだけ人も来そうにない道で待ち伏せするほど暇ではなかろうと思っている内に、明るい道に出た。

スーパーはちゃんと開いていたが、もう夜だからか客は少なく、昼間の売り上げがよっぽどあったんでなければ、照明費ももとをとれないのではあるまいかと心配になった。正月用らしい豪勢な刺し身パックがかなり売れ残っていて、猫のカツジが大好きな白身魚のお刺し身もあった。正月早々、罰当たりなことをするのも気が引けたが、私も食べるのだからいいかと思い切って、買ってしまった。キャッシュカードにあまりお金が入ってなかった気がしたので足りるかどうかと気になったが、ぎりぎり大丈夫で、刺し身パックの袋をぶら下げて、今度は駅を通過して、明るい道をたどって帰った。

行きがけの踏切の近くで、大きな白黒の猫を見た。行方不明のマキちゃんに似ている気がして声をかけたが、地をはうようにして逃げて行ってしまった。その動作もマキちゃんっぽくて気になったが、しっぽがかぎしっぽで短かったから別の猫だろう、多分。よく考えると私はマキちゃんのしっぽの長さをしっかり思い出せないのだった。それも何だか気がとがめる。ただ、かぎしっぽではなかったはずだ。

そんなことを考えながら、家の近くの住宅街を歩いて行った。ここはいつも通る道なのだが、何だか今夜はいつにも増して静かで人の気配がなかった。正月の、まだ八時ごろだと言うのに、家族団らんの騒ぎ声もしないし、テレビの音さえ聞こえない。明かりがついている窓さえ少ない。車がない家は家族で旅行にでも行っているのだろうが、車がある家も人の気配があまりない。日本の人口は本当に減ってるのか、少子化は進んでいるのかと静かな町を歩きながら、ちょっと不思議な気持ちになった。あふれだして来る暖かさや幸福感が感じられなかったのだ。

マッチ売りの娘が、明るくにぎやかな窓の外でわびしい思いをしようにも、そんな家が見つからないという感じだった。こんなの、うちの近くだけなんだろうか。
首をかしげながら家に戻った。迎えに出た猫のカツジに、正月だから特別なのだよと言い聞かせながら、上等のお刺し身を数切れやってみた。脇目もふらずに食べあげて、いつものように、まだ何かないのかというような顔つきもまったくせず、思い残すことのひとつもないような顔で、爆睡してしまった。最近ブラシをかけるのをサボっていたから、お尻に毛玉がいくつか出来ていて、さわっただけでも怒るのに、寝ているところをはさみで一房切って取っても、気にもしないで眠っていた。

カレンダーもかけ代えたし、原稿の校正も少しはしたから、もう寝るか。ゴーン氏の逃亡には驚いたが、ネットでは、これをきっかけに日本の司法制度の厳しさが、世界の批判を浴びるのではないかという声も多いようだ。

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カツジ猫