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「水の王子」通信(162)

「水の王子  空へ」第一回

「水の王子」の続編というか副編というかの「山が」に続く新シリーズは、タケミカヅチが語り手で、アメノワカヒコが主人公の「空へ」です。
 ここにあげる挿絵は皆、「村に」の電子書籍の挿絵集で紹介した、ナカツクニの村のその後を描く予定の「村から」で掲載したものです。上の絵は人物紹介のタケミカヅチ。説明が超短かったし、「村に」の出番も少ないですが、今回のシリーズでは、語り手で、出ずっぱり。

彼がナカツクニの村の若者たちに、ワカヒコとの思い出話を語って聞かせるのは、ツクヨミとイワナガヒメの経営する酒場で、上記のような雰囲気のとこ。そうなったいきさつは、「山が」の余談の最終話「それぞれの愛」の冒頭に詳しく説明してあります。

上の挿絵も、同じころ描いたもので、タケミカヅチとワカヒコの出会った時期の場面。二人の関係は将軍と副官。

「山が」のタカヒコネは、危険なようで相当アホでしたが(笑)、逆に今回のタカマガハラのエリートであるアメノワカヒコは、アホなようでめちゃくちゃ賢く、おかげで何を考えているか、登場人物にも読者にも、ひょっとしたら作者にも、いまいちわかりません。

なお、くれぐれも念を押しておきますが、今ではおめおめタカヒコネのペットになりさがったらしい(笑)、小動物イナヒのモデルが私の飼い猫では絶対にないように、ワカヒコの中に私自身の要素はまったくありません。まあもちろん、「水の王子」の全登場人物(動物もか)は私がモデルではありますが、あくまでも、その程度しか重なりません。むしろ、こんな風に生きられたらよかったな、こんな風に生きるべきだったかなという、かなわなかった理想の要素はあるかもしれません。

「山が」同様、いったいこの話がどういうところに落ち着くか、自分でもわかりませんが、これを書くことで私がときあかしたいのは、おおむね二つの謎というか問題です。

ひとつは、「村に」の中でまったく明かされなかった、アメノワカヒコの内心です。もともと最初に「村に」を書こうとしたとき、私が主軸にすえようとしていたのは、壮大な計画を誰にも明かすことなく、徹底的に一人で抱え込み続けたアメノワカヒコの恐ろしいまでに強靭な孤独でした。それを今回、あくまでかる~いノリで描けたらと思います。

もうひとつは、私の創作における男性キャラの使い方です。具体的には書きようがないから象徴的な描写になるしかないでしょうが、彼らが私にとって何であったかを自分でも考えられればいいと夢想しています。ちらっと言うと私は幼年期も青少年期も、自分にとって一番悩ましい苦しい思いは、自作の小説の主人公に仮託し代弁させることが多かったのですが、私はそれを自分そっくりの、または正反対の「女性」に負わせる勇気がなくて、いつも好きな主人公の「男性」に代弁させ、女性キャラにそれを救ったり慰めたりする役割を与えていました。(ボーイズラブや、やおい文学は、そういう点では重なる要素が多かったかもしれないと考えています。)

それで私の性向やら性癖やらを分析しようという酔狂な方がおられましたら、できればその前に、もしかしたら、ちまたの男性作家にもまったく同じ手法を使っている人がいる可能性はないものかどうか、ちょっと考えてみて下さいますか? 私は男性である自分の苦しみを理想の女性に仮託して描いている男性作家は、そこそこいるとふんでいるのですが。

それはさておき、この手法で一番問題だったところは、私の「女性としての苦しみ」だけは男性に仮託できなかったことでした(笑)。しようがないじゃないですか。女性でなければ味わえなかった差別や屈辱、怒りや憎悪を、男性のそれに置き換えるなんて手のこんだ作業をしていちゃ、創作に没頭できませんやね。

「水の王子」第三部「海の」は、かろうじてそれをやってる作品で、あの設定に感情移入できない女性は(一番の親友もその一人なのですが)、私は女性としての思いは共有できないと感じています。まああんまりそんなもの、人と共有したくもないからいいけれど。

というわけで、最初の数回の原稿はもうしあがっているので、近い内に「空へ」の連載、開始します!

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カツジ猫