「忘却バッテリー」へ逃避
ところでビートたけし氏も映画「グラディエーター2」をほめてるらしい。「暴力的な描写をためらっていない。しかも過度に使ってもいない」ということのようだ。これはまた、今のこの映画のファンの人のかなり多くが評価している点でもありそうだ。
まあ私もその評価には同感だし、思えば私の小説にもけっこう残虐な場面はあったりするから(特に「水の王子」シリーズの「海の」なんか)、それを否定できるわけもない。
ただ、いっしょくたにしてはいけないのだが、ビートたけし氏や任侠映画、マフィア映画、その他もろもろ暴力を魅力と感じる感覚が、私にはすごく欠落していて、これは弱点とさえ思える。誰か私にその魅力を教えてくれと、かなり真剣に前に書いた。
それはトランプ、ネタニヤフ、プーチン、兵庫県元知事などにもどこかで共通している「「「魅力」」」(あまりにいやで、そぐわないから魅力の語にいっぱいかぎかっこをつけてしまった)でもあって、これを何とかするためには、理解も妥協もふくめて、とにかくもうちょっとは敵を知らねばと思ったからだ。
もちろんそんなこと、おいそれと誰も教えてはくれなくて、内田樹さんのこのことばが、「ああ、同じことを心配してはる(なぜか関西弁)」と心にとまったぐらいだった。
そういう「退行する物語」に多くの人が魅惑されている。日本でも同じです。兵庫県知事選で露呈しているのは、「ルールを守らない人間、常識に従わない人間が最も自由で、最も力にあふれ、最も人間的に見える」という倒錯です。世界中にこの倒錯が瀰漫している。
内田氏は武道家でもあるから、私よりこの方面の理解はもっと深いし鋭いんだろうと思うが、更に注目して行きたい。
まあそんなこんなで、ニュース見てると、ほんとにろくなことがなくて、ストレス解消に少し前に手に入れた「忘却バッテリー」のDVDの最新4巻を、すりきれるぐらいにくり返し見てた。
登場人物全員が好きなんだけど(こんな紹介もある)、特にこの回は、記憶喪失でアホになってた、かつての高校生名捕手が突然記憶を取り戻して、技術から人柄から完璧な「智将」に復帰して(それがいつまで保つかはわからん)、強豪校の氷川高校と練習試合をする。この氷川高校に巻田くんという豪速球(ただしノーコン)の一年生投手がいて、これが主人公の一人の俊足頭脳派千早くんと中学校時代にややこしい関係になってる。
千早もなかなかの性格だが、巻田は単純に陽性にウザいやつで、からまれるとうるさい、私の苦手なタイプだ。悪気はないけど嫌なやつを描かせると、この漫画本当にうまい。
だけど、これがなぜかアニメだと、変な髪型も目立たなくされてるし、顔も声もたしかに巻田なんだけど、何だか魅力的でかわいらしく、いいやつに見えてしまう。イメージこわさないで美化するってすごいぞ。「すみませーん、小手指校の方ですかー?」と言いながら一人で走って出迎えに来る最初の登場シーンから、「あー、ちゃんとした、いいやつじゃん」と感じてしまう。そのまんまの姿で、やっぱり無神経にしつこく千早にかまってそっけなくされて傷ついて怒ってるのも、実におかしくてかわいい。初対面の藤堂やチームメイトからも「アホ」と決めつけられてしまってるのも納得できるけど、そこがまたいい。
そして、そんな巻田をいじりたおして楽しむ氷川のエース、二年生の桐島秋斗が、漫画でも嘘みたくカッコいいのだが、声と動きが加わると、もう素晴らしいの何のって。最高だよお(笑)。千早くんとはまたちがう、なめらかで余裕ありまくりの性格の悪さがもう。
原作では特に一人に集中してはないのだけど、氷川のメンバーの一人で、中学のとき千早や巻田と同じシニアチームにいた栗田くんという選手が、二人の関係や千早について、正確な分析と指摘を、素朴にするところもいいよなあ。
原作との細かい差では、氷川の最初の投手がカットボールを使って来たとき、オタクで俊足でセンターの土屋くんが、「パワプロなら打てるけど…どうやったら実際には打てるの?」と聞いてるのにも妙に受けて大笑いした。このセリフも原作にはないのだよ。アニメ、がんばっとるわい。続きを作って放映してくれないかなあ。需要ありまくりと思うんだけどなあ。
えーと、下の絵は、「海の」の残虐シーンの挿絵イラストです。まあ文章に比べりゃ絵のほうは大した恐さじゃないので、ご安心を。