シリーズ「馬の中」完成間近
昨日までに新シリーズ「馬の中」(全三冊)の最終冊「夜」の最終校正を仕上げてしまう予定だったので、日が昇るまではまだ昨日だということにして、今朝四時に起きて明るくなる頃に仕上げた。達成感というよりバテて、ふらふら燃えるゴミ出しに行き、庭に水まいて、ありあわせのおかずで朝食をすませ、ひと眠りしようと思ったが眠くもなく、さりとて予定していた料理を作るほどの気力はなく、困っている。結局お昼はパンとりんごとジュースですませた。
でも、収穫と言っていいのは、校正にあたって読み直した、「夜」の内容が思っていたよりよくできていて、自分でも気に入ったこと(笑)。いえ別に不満なわけではなかったけど、もともと、このシリーズは昨今の世界の戦争や独裁の横行進行する雰囲気に恐れをなして、急遽出版を決意したもので、その前の「水の王子」や「砂と手」のシリーズに比べると、それほどまでには「これぞ私の人生」みたいな(笑)ものではなく、もっと軽やかに気軽に書いたもので、それだからまたいい感じのとこもあるけど、何しろ「わかってもらえないなら、それでもいいや」みたいな気分があった。
特に第三冊「夜」は前の二冊の補充みたいな気分もあって、風変わりな短編や、遊んでいるような内容もあったし、メインの中編「12日間」も、第一冊「炎」の中の「疾走」の裏話みたいな要素もあったから、完成度はそんなに気にしていなかったのだ。
しかも中断していたのを、二十年ぶりぐらいに継続して完成させていて、別に苦労もいらないほど自然につながったとは言え、それも何だか自分の中で、こうあっさりと続けられていいもんですかいという疑いも、ちょっとはあった。
でも、校正であらためて読み通して見ると、戦争再開直前、どころか実は崩壊寸前の世界の中で、避けられるかもしれない悲劇的未来に向かって、明るく力強く努力する人たちの、ひとつひとつの顔が見え、声が聞こえて来る気がした。それは、今を生きる私たちや私自身の昨日や今日や明日と、そんなに遠くも思えなかった。
そして、書いている時には、あくまでも「疾走」で描かれた美しい都の悲惨な崩壊と人々の死につながる、そこと合流する話として作っていたはずなのに、読み直して行く内に、この話「12日間」は、そうなるのかもしれないが、ならないのかもしれない、独立した別の話のように見えて来た。
それは第二冊「風」の中の二つの話、人々の努力と工夫によって平和な未来が成立する、夢のようで夢ではない物語と同じように、明るく幸福な国々と世界の未来につながって行く物語としても読めることが、おぼろげながら感じられたのだ。
これもまた、希望の物語だった。それはまさに今、この現代の、現在の中で、私自身が読み直さなくてはならない、なすべきことの数々の物語だった。それがどんなに失敗に終わろうとも不安の中に霞んでいようとも、やっておくべきことがらと、生きていくべき毎日を示してくれる物語だった。
他の三つの短編も、さまざまなかたちで、それを彩っている。
そんなわけで、いたずら半分のように皆に手渡すはずだった、この「夜」という一冊は、先の二冊や前の二シリーズと同様に、もっと力と心をこめてお届けする本になるのかもしれない。多分それは、ささやかながら確実に、幸福なことなのだろう。

ところで校正の合間の気分転換に、古いDVDを適当にひっぱり出して見ていたら、WBCのドキュメンタリの「憧れを捨てた侍たち」がその中にあった。同じ監督のプレミア12の「侍の名のもとに」もあって、どちらもいいがどっちかと言うと私はこっちが好きなんだけど、ただこっちはナレーションが妙に舌っ足らずで甘ったれた女の子の声がナレーションで、強烈に気持ちが悪いもんだから、ついWBCの方を見てしまったりする。
どちらも、のぺっと全員をなぞるドキュメントじゃなく、それとなくめりはりつけて主役その他を演出させているのが、とてもうまい。WBCの方では大谷やダルビッシュという大物をほどよく抑えて使いこなして、負傷した源田選手の気迫やクールなようで熱い精神や、若い佐々木朗希の初々しいみずみずしさをクローズアップしているのが効果的だ。ただ、この後の選手たちのいろんなスキャンダルや不振や不運やその他も今ではわかってるので、そこはいささかほろ苦くもある。そこもまた味がある。
とか言ってたら、その両方で活躍してて、今では身体もひとまわり大きくなってる周東選手が昨日の試合で、エラーとまでは行かなかった不手際な守備をした直後、突然ホームランを打っていて笑った。昔からしつこく書いているけど、若いときからこの選手で気になっていたのは、輝かしい活躍をしたあと必ずそれを帳消しにするような失敗をして皆に悪しざまに言われると、すぐまたそれを上回る成長をして、ファンやメディアを後悔させ恥じ入らせることで(もちろんわざとじゃないだろうけど)、最近あらゆる面でものすごく立派になって誰からもほめられまくりなので、そろそろまた何かあるんじゃないかとこっちが落ち着かなくなっていた。でもそうか、もしかしたら、周期が短くなって来ていて、ひとつの試合の中でスイッチバックをするようになって来たのかと変に納得したけど、どうなんだろうね。