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「暗黒日記」の思い出

昨日も書いたが、今年の原爆や終戦に関する特別番組は、NHK民放おしなべて、力のこもった良作や名作が多い。それだけにうっかりすると見逃してしまう。ゆうべも寝落ちしていたら、ものすごい深夜に、NHKスペシャルが戦時中の兵士や民間の人たちの日記をたくさんとりあげて、しかもさすがNHKと言いたいような物量作戦で、最新の機器を駆使して南方の戦場の再現などもやっていて、あれこれすっかり見入ってしまって、また寝不足になった(笑)。

書きたいことは山ほどあるが、きりがないから箇条書きに。

1、ガダルカナルだったかの地獄の戦場で、飢えと圧倒的に強い敵にほとんど虐殺されて行く兵士たちの細かい日記がずいぶん残っていて、「そんな中でこんなこと書けるのか、嘘だろ、作り物だろ…」と言いたくなるレベルなのですが、昔、けっこう大御所の雑誌か新聞で読んだエッセイに、「日本軍の残したもののなかに、個人の詳しい日記がたくさんあって、米軍の方がこんな機密事項をこまごま書いて平気で残して行くなんてどうなってるんだ日本の軍隊はとあきれてびびった」という記述があったのを記憶してますから、きっとあれ全部ほんとの日記なんでしょうね。

2、一方、日本ではいわゆる銃後の女性たちが幼い人から成人まで、全力で戦争を肯定し、熱烈に支持し、愛国映画に涙して感動し、日本は勝つ、最後までがんばるとか日記に書いていて、今さらながら朝ドラ「あんぱん」のヒロインが愛国心あふれる軍国少女だったのは、ちっとも不思議でも珍しくもなく、むしろ穏やかな程度ぐらいだったのが、よくわかる。

私は朝ドラは「虎に翼」からしかちゃんと見てないんで、以前のことを知りません。だから「あんぱん」のヒロインが、あの程度の愛国心を見せて軍国主義に染まったことに、反感や違和感を抱いた視聴者がいたことに、本当にびっくりしました。いったい、それまでの山ほどの朝ドラでは、主人公とその周辺は、国や周囲の軍国主義と愛国心の嵐の中で、皆、戦争反対で日本の勝利を信じられないで、ひっそり生きてたことになってるんでしょうか。だとしたら、そっちの方が恐いです。

平和授業でとりあげられる絵本や児童文学でも皆ほぼそうで、国民は皆戦争反対で政府が暴走したような描写になってるのが、昔から気になっていやでしかたがありませんでした。そんならいっそ天皇の戦争責任を問えばいいのに、天皇も実は軍部にあやつられた被害者だったみたいな描き方をしたり、いったいじゃあ誰が戦争を認めて起こして支持したんだよって話です。戦争に反対して投獄されて殺された共産党員や新宗教の信者やその他わずかな人たち以外は皆、「あんぱん」のヒロイン以上の戦争肯定の軍国主義者だったのだし、まじめで素直な人ほどそうだったはずなのが、当時の日記を見てもよくわかります。私は幼いころから、むしろ私がその時代にいたら、きっとそうなるだろうと脅えながら生きていました。そうならない方法をいつも考えていました(笑)。

3、最愛の息子が戦死したと知らず、ほぼ一年も息子に手紙を書き続けた、ある父の住所が、ここ宗像市だったのにも不意を打たれました。近くのコミセンにある慰霊碑に息子さんの名もあるのでしょうか。息子のよこした手紙や葉書も多く残っていて、文章や文字の美しさも印象に残りました。

4、当時の知識人たちの書いた日記もいろいろ紹介されていて、その中に清澤洌の「暗黒日記」があったのもなつかしかった。世界ノンフィクション全集というシリーズの本を子どもの私は愛読していて、ナチスに抵抗して死刑になったショル兄妹の「白バラ通信」や、インドの「セポイの乱」や「ドレフュス事件」のことなど、皆そのシリーズの本で知ったのですけど「暗黒日記」も気に入って何度も読んでいました。冷ややかで皮肉っぽく、戦争中の日常を書き綴る、その文体がとても好きで、何となく、いざという時の生き方や過ごし方の参考にしていた気がします。
 今はもう、よその人が住んでいる大きな田舎の家の二階の古い座敷の片隅でただ一人、それを読んでいた子どものころがありありとよみがえり、いろんな紆余曲折はあったけれど、その時と今とが、たしかにつながっているのをあらためて感じました。

ああ、でも。

よみがえる過去と、現在と未来がつながる自分のこの状況を、一応幸せとは思いますけれど、これからどうなるかという話はさておき、こんな私の気分や態度は、若い人から見ると、どこやら鼻持ちならないか、妙に整っていて近づきがたいか、とにかく「別世界の人」っぽく見えてしまうのかもしれないなあ。そこはいろいろ、よろしくないですね。

この年になると、昔のことを知ってる人がどんどん減って行きます。淋しいよりも、旧悪を知る人が少なくなって、ほっとします。私の過去の醜さもみっともなさも知ってる人はいなくなり、嘘ついたってばれずにすむ。生きてるだけで何か勝ち組(笑)。だから変に立派な人に見えるようになって遠巻きにされないようにしておかないと。

先日紹介したホークス4軍の本の中で、往年の偉大な名選手たちが、やる気のないように見える若者たちと何とか心を通わせようと悪戦苦闘している話を、昨日行きつけのお店で話して、それはもう今やどこの世界でも同じだと大笑いしたのですが、本当に彼らに少しは学ばなくてはいけないのかもしれないです。

どうやら雨は上がったようで、久しぶりに外は日が照っています。洗濯物を干しに行かないと!

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カツジ猫