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ああ、ザパロージェ!

ロシア軍がウクライナの原発を攻撃したとか占拠したとか火災になったとか爆発したらチェルノブイリ以上の災害になるとかいうニュースを耳にして、これってもうすでに核攻撃みたいなもんじゃないかと愕然とし、だからもう日本に限らず世界のどこでも原発なんか作っちゃいかんのだよと、あらためて暗澹としながら憤慨していたら、夕方のニュースで、その原発が「ザポロジエ」にあると聞いて、ぎょっとした。

それって、私がこの間からちょくちょくここで紹介している、幼年時代の愛読書、子ども向きの「隊長ブーリバ」(原作ゴーゴリ、翻訳原久一郎)で、ブーリバと二人の息子オスタップとアンドレイが、仲間のコサックたちと陽気に暮らしていた、彼らコサックの心の故郷、ザパロージェのことなんじゃないの!?

その地域の生活、周囲の風景、コサックたちの毎日を、この小説は生き生きと細かく詳しく描写している。幼い私にとって、それは現実と同じくらいになつかしい、親しみ深い場所だった。荒々しい、勇ましい、彼らとともに、もみくちゃにされながら日々を過ごしていた気がした。

そこに、原発ができていたのか。チェルノブイリ以上の規模の、ヨーロッパ最大級の。

言葉もない。何も知らずにいた自分にも。そんなことをしていた世界にも。

福島の原発で汚染された地域には、私がこれまた幼少期に誰よりも愛した一人、源義経の家来の佐藤忠信(友人たちと「吉野の雪」という小説まで書くほどはまった)と、その兄継信や彼らの家族の墓がある信夫の里や医王寺があった。

あの時も思ったけれど、他のどこならいいとかいうわけじゃないけれど、どうしてこんなによりによって、私の最も愛した場所が、傷つき、汚されるのだろう。

「ザパロージェのコサック」と何度も誇りにみちて、くり返されていた、あのことば。あの地名。それを、こんなかたちで聞くことになろうとは。

現実の故郷の消息を聞いたように、今、胸がとどろいている。空想と現実が一体化し融合していた幼い時代に引き戻されてしまったように。

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カツジ猫