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マットなにゃんこ

ブログで猫のカツジが死んだと知った元教え子の一人が、転んで傷めた私の足のことも心配して買い物の代行に行こうかと電話をくれた。ありがたいがまあ大丈夫そうだからと答えたついでに、片づけの手伝いに来てくれていてカツジのこともよく知っている人なので、二人で彼のことをしゃべりあった。別にそう苦しみもしないで死んだこと、本人はきっと死ぬ気もなくて、疲れたから一眠りしてまた普通に暮らそうぐらいに思っていたにちがいないことを聞いて、彼女は安心してくれた。

彼がそうやって、フローリングの床の上のあっちこっちで寝ていた最後の日々、私はまだ転ぶ前だったけど、老化のせいでともすれば足元がおぼつかないこともあって、ふんづけたらどうしようと気が気じゃなかったと言って、踏み殺すのも、そうやって死ぬのも最低だからねえと二人で言い合った。そして彼女が、ふんづけそうになるという私の気持ちをわかってくれて、しごくまじめに「マットみたいですもんね」と評したので、私は吹き出し、二人で大笑いした。だって、ほんとに、こいつが床にのびてると、マットそっくりだったんだもんよ。この写真はまだ元気な時のですが。ちなみに私が眠るときに、よく握ってた彼のしっぽというのは、これです。

テレビのワイドショーで、近く公開される映画「宝島」の宣伝をしていた。私はこの映画の原作を単行本で読んだのだが、その熱さと荒々しさとすさまじさに圧倒されて、尊敬も共感もあるのに、もう何だか近づきがたくて、そろそろ後退りして逃げてしまったような気がする。作品そのものの迫力や熱気も、それを生み出す沖縄の現実も何もかもが、途方に暮れて立ちすくむしかないような力強さと途方もなさだった。混沌、豊穣、そしてまぶしさ。感想も書けないまま、遠くからただながめていた。

それが今、同じような熱気をはらんだ映画になる。朝ドラ「あんぱん」の八木上等兵役で人気がある妻夫木聡の主演で。この俳優をよく知っていたわけではないが、「あんぱん」関係の番組に出た時の発言などを聞いていても、深い思考や決意を持って生きていることを感じさせる人だった。その人が今、この映画の宣伝に監督とともに熱心に協力していると聞くと、さまざまな思いが重なって来る。

まだ見てもいないのに何だが、この映画には法の番人や市民運動も描かれる一方、いわゆるヤクザの世界も登場する。私は「ゴッドファーザー」をはじめとした外国のマフィアものでも日本の任侠映画でも、その魅力がまったくと言っていいほどわからない人間だ。ただ、そういった映画が人を惹きつける中に、社会や歴史のゆがみが彼らを生んだという事情が魅力となっていることは、知識としては知っている。

この映画で私がその魅力をどの程度味わえるかはわからない。しかし、それに魅了されて来た多くの日本人、それを磨いて優れた芸術とした映画人などが、この映画を通して、沖縄とその歴史の持つものを、肌で理解することもあるのではないかと、そういう期待もどこかにはある。

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カツジ猫