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メルティス刑事(追加)

メルティス刑事の思い出を、もうちょっとだけ追加しておく。
今は映画は一人で見ることが多いが、大学のころはたいてい友人といっしょに見た。でも「さらば友よ」は、たまたまいつも行く友人ではなく、いっしょにアパートを借りて共同生活していた別の友人と見た。ワンダーフォーゲル部に所属していた元気な女性だった。

私たちは映画も楽しんだが、特にメルティス刑事が気に入って、後でよく話題にした。友人は中でも、ブロンソンが駐車場で逃走中、この刑事がいきなり道をふさいで前に現れ、パンチを浴びせて逮捕する場面で(その時が初登場の場面だったはず)、いきなり彼が、「おれは刑事のメルティスだ。カミソリを出せ」と言うのに、ずっとこだわっていて、「どうしてカミソリ持ってるってわかったんだろ」と、ずっと言っていた。

私も彼女も別にオタクやマニアや熱心な映画ファンというほどのこともなく、何しろそのころはDVDとかビデオとか、全然ありもしなかったから、そのセリフを再度検証することもなかった。もしかしたら、訳がそうなっていても原文はカミソリじゃなかったのかもしれないが、わからない。
とにかく、たしかにブロンソンはカミソリが武器で、ドロンと二人で地下金庫に閉じこめられた時も、脱出口を探して壁をカミソリで切ってみていたら、電線に接触してビビビとか感電してぶっ倒れたりしていたのだった。それで換気装置が壊れて、ますますひどいことになっちゃうんだけど(笑)。

淀川長治さんか荻昌弘さんか、他の誰だったか覚えていないが、やっぱり荻さんだったのかなあ。週刊朝日の映画欄で、この映画を紹介したとき、メルティス刑事にも触れて、「ドロンとブロンソンの二人の友情にちょっぴり嫉妬している様子も見せたりして、味のあるいい演技」みたいなことを言って、高く評価していたのを覚えている。

もしゃもしゃ頭にいかつい顔、しょたくれたレインコートにごつい身体。ブルドッグか雄牛のようで、それでいてどこかスマートでカッコよかったメルティス刑事だが、私の頭の中では「さらば友よ」みたいな極上のかっこいいエンターテインメントの娯楽映画の世界の人というイメージしか定着してなかった。だから「サンチャゴに雨が降る」で、アジェンデ内閣の大臣として、暖かい無骨な人柄をにじませて労働者たちと話している姿を見たとき、驚きと喜びとなつかしさとがこみあげて、彼が滅ぼされた政権そのもののように見えもした。

今回、ツイッターのコメントで教えていただいたり、ネットで見たりして、相当有名な俳優さんだったと知った。「Z」にも出ていたということだが、実は私は「サンチャゴに雨が降る」を見て夢中になっていたころ、何かの批評で、「一方的な立場で描かれていて、『Z』のような深みには欠ける」みたいに言われていたので、何をすじちがいで見当違いの批評してるんだよと、かっとなったついでに、まだ見ていない「Z」まで大嫌いになり、見ないままになってしまっている。惜しいことをした(笑)。

何しろ私は何かを愛して夢中になると、そのライバルや比較される存在が皆許せなくなる、ものすごく心のせまい人間である。最近レンタルショップで見ようかなと思ったDVDが何だかいやな印象があって、結局借りるのをやめ、でもどうしてそんなにいやな印象があるのかわからなくて、しばらく首をひねって考えた結果、やっとこさ思い出したのは、もう二十年も前に大好きではまった映画があって、それを映画館に見に行ったとき、向かいの部屋で上映されていたその映画の方に客が多く入っていたのが、ものすごくムカついた、その印象がいまだに消えていないのだった。

言うときますが、日常生活や自分自身に関することでは、私はそんな理不尽な感情やライバル意識は持ちません。むしろ他人はどうでもいいし、いろんな相手のそれなりのよさを認めて、公平に平等につきあいます。しかし、ひとたび誰かや何かを夢中で好きになったなら、そうやって好きになった責任上、他のものには目もくれないし、その相手にマイナスになる存在は徹底的に無視し嫌悪し憎悪します。「十二国記」に出てくる凶暴な使い魔とかに似てるかもしれない。
まあだから、めったに何かを好きにはならないことにしているけれど(笑)。

そう言えば、こういう気持ちをどう処理したらいいかをずっと考えていて、新聞で紹介されていた「推し、燃ゆ」を読みたくて注文しようと思ったらタイトルを忘れてしまい、ネットでオタクだの推しだのの検索をしても見つからず、悶々としていた。そうしたら何と芥川賞をとったとかで、しめたと思って本屋に行ったら、今度は売り切れでどこにもない。
まあここまで待ったんだからと、放っておいたら、二日ほど前に近くの本屋に入っていて、即座に買って、スーパーの休憩コーナーで一気読みしました。
面白かったし、「こんなものじゃない」みたいなシラケ気分はいっさい感じなかったけど、新しい発見や、私のミーハー精神の活かし方の参考になる資料はなかったなあ。まあそんなもの求めて読むのがまちがいだからいいんですが。

むしろ、齢七十四歳にして、この主人公とほぼ同じことをし、全然違和感も距離感もない、同じ精神状態をずっと保ちつづけている自分にちょっと驚愕したわ。われながら引いた(笑)。何かに熱を上げまくってミーハーに徹するという意味じゃ、母もまったく同じだったのですが、考えてみれば、母は今の私の年齢までもこうだったかしら。うわ、もしかしたら母を超えているかもしれない、私。

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カツジ猫