白兵戦
朝起きると、荒れ放題の庭の垣根のあちこちに、リュウキュウアサガオがこれみよがしに、いくつも鮮やかな青色の花を開いている。花としてはきれいなのだが、こやつの生命力はものすごく、油断すると庭中をおおうし、どこからでも生えてくる。たいがい駆逐したはずだったのに、すっかりあちこちに広がって、ものすごいことになりかけていた。
ムカついたので、朝食もあとまわしで、とにかく上っ面だけでもと、片はしからツルをひきちぎりにかかった。ひっぱると、わさわさものすごい量が取れてくるので、案外気分はいいのだが、特に上の家の前庭の垣根は、伸び放題の金木犀の枝がはびこって、そもそもアサガオに近づけない。しょうがないから、例の剪定ばさみで、ばしばし枝を切りまくった。金木犀のみならず、ロウバイも、あと何か得体のしれない木も伸びまくっているのを、刈り込みまくって、その間から手を伸ばし指をのばし、やっとツルのはしをつかまえて、引き寄せてはちぎりまくって、まあ当面は退治した。根っこから抜いてはいないから、また伸びて来るだろうが、これでしばらくは時間をかせげる。
それにしても、手前の木々の枝を切りまくって、やっとこさ引き寄せたツルの先の、大きな青い花のいくつもが、いきなりすぐ目の前に来たときは、何だか最前線で敵と直対して白兵戦にもつれこんだような気分になった。
ちぎったツルと切った枝とは、そのへんに積み上げてある。もう庭に置くのは限界があるので、元気があるときにゴミ袋の特大を買って、片はしからつめこんで、燃えるゴミに出すことにしよう。何しろ昔とちがって、体力も脚力も落ちまくりだから、うっかり熱中してやってると、バランス崩して足もつらせて、倒れてまた足でも傷めたらおおごとだ。あくまでぼちぼちやるしかない。
庭では彼岸花が満開だ。今年の変な気候のせいか、例年はいっせいに咲く花が時間差で咲いて、隣家の庭の花はもう終わったのに、わが家はこれから満開らしい。猫のカツジの墓近くでも、鮮やかにひとむらが咲いて、なかなかいい絵になっている。

プロ野球のパ・リーグではソフトバンクホークスがリーグ優勝して、深夜まで各局で特番が行われていた。翌日は昼から試合というのに、インタビューやビールかけで忙しそうな選手たちは大丈夫なのだろうかとあきれつつ見ていて、気がつくとこっちも夜ふかししてしまっていて、睡眠不足になった(笑)。
日ハムもオリックスも阪神も調子がいいから、日本シリーズまではなかなか大変な道のりだろうが、初期のリーグ最下位まで落ちた低迷状況を思えば、もうこのリーグ優勝だけで奇跡的な成果と言っていいだろう。その割りに悲壮感や満足感や達成感は選手も監督もさほどなく、負傷や欠場も多かった主力選手やその補充で苦労した若手選手の誰もが、自分は何もしなかった、他の皆がすごかった的な発言や態度を期せずして基調にしていたのは、ちょっと感動的だった。
牧原大成選手が、いつもながらちょっとぐれてたり、柳町達選手があいかわらずつつましくあれだけの活躍の割りにあまり出て来なかったりしたのも、らしいなあと面白かったが、見ていて一番笑ったのは、周東佑京選手と栗原陵矢選手ふたりのインタビューだった。いくつもある中、なぜかYouTubeで見つからないのが残念だが、西田たかのりアナウンサーが担当したインタビューが、なじみ深い相手だから気を許したのか、二人がじゃれあってるとしか見えない突っ込み合いをしていたのがおかしすぎた。「子どもだ」とか「ずっと休んでた人に言われたくない」とか、言いたい放題で、どのタイトルかを柳町選手と栗原選手のどっちが取りそうかと言われて「それはずっと出ていて頑張ってた達(柳町選手)でしょう」などと即座に断言したのもたいがいだが、周東選手がくりかえし、「ずっと休んでいた」栗原選手をいじめていたのも、あまりに仲良さそうなので、ほとんど「いなくて淋しかった」と恨み言を言ってるようにしか見えなかった(笑)。
だが冗談はさておき、今回の優勝で周東選手が果たした役割は守備や打撃だけではなく、選手会長としてのチームの雰囲気づくりの面で相当に大きかったのではないかという印象がある。主力選手の負傷や長期欠場や、若手選手のとまどいと緊張、競争意識がもつれあったらチームの雰囲気はそれこそ最低の地獄になりかねなかったはずだし、さらに山川選手や上沢選手など、さまざまな複雑な事情を抱えている選手たちと他のメンバーの融和など、私など考えるだけでも恐ろしい職場環境なのに、それを「ベンチの雰囲気はとてもいい」と連敗中でも皆が認めていた状況を維持し続けた才能と意志は、ちょっともう想像もできない。監督やフロントのメンタルコーチを置くなどのさまざまな配慮も、もしかしたら選手会長の役割もなにがしかはあったのではないだろうか。
最終盤の主力の復帰と自身の負傷欠場もあって、優勝前後の功績を語るとき、周東選手はあまり注目されなかった。だが彼は仮に残念で悔しかったとしても、それを上回る「自分の作るチーム」への満足と誇りを感じて、行動し発言しているだろうと私は感じていた。その志の高さに救われる思いがした。なんというか唐突だが、昨今の世界情勢や日本の状況を見るにつけても(笑)。その精神が、活躍して注目された各選手たちにもどこかで反映し、つつましさや無欲さを、激しい戦意や競争心と自然に両立させている。
状況は厳しいし、毎回の試合も決して楽に勝ってはいないし、日本一への道はどういう結果になるかわからない。だが、このようなチームが作り上げられ、リーグ優勝を果たしたというだけで、私はすでに充分に大きな成果ではないかと思っている。